行政保健師とは、各自治体に所属している保健師のことを言い、地方公務員となります。
行政保健師の職場は、
- 保健所(都道府県の場合)
- 保健センター(市町村の場合)
- 市役所
- 地域包括支援センター
等があります。
行政保健師は主に管轄する自治体で生活している市民に対して健康管理を行っており、看護師(保健師)としてはプライベートと両立できる仕事環境であるため、大変人気の高い仕事となっています。
今回は、市町村の保健師として勤務していた私の経験を元に、行政保健師になるための方法や仕事内容、働いて感じたことについてご紹介していきます。
【執筆した看護師のプロフィール】

- 年齢/エリア:41歳/大阪府
- 資格:看護師、保健師、ケアマネジャー
- 経歴:大学病院、市役所、保健センター、地域包括支援センター
- 経験がある診療科:耳鼻咽喉科(頭頚部外科)、歯科口腔外科、眼科、婦人科
目次

1.看護師から行政保健師になるためには?

行政保健師になるためには、保健師の国家資格が必要です。
保健師の国家資格の受験資格を得る方法としては、
- 看護系の四年制大学を卒業する
- 保健師養成課程の短期大学などへ進学する
等があります。(詳しくは厚生労働省の「保健師国家試験受験資格認定について」を確認しましょう。)
保健師資格を保有しているものとして、行政保健師になるための方法や年収、試験対策などを私の体験談からご紹介します。
(1)自分に合う条件の行政保健師求人を探す【正職員】

画像:shutterstock
自治体や都道府県によって問題の傾向、日程などが違いますので、自分が転職を希望している勤務地の求人は必ずチェックしておきましょう。
普段から掲載求人を気にしながら、自治体(市役所や区役所など)のホームページをチェックしておく必要があります。
また、募集要項は大学などで出ることがありますので、チェックできる環境にある場合は気にしておきましょう。その地域の医療系雑誌などでも掲載されることがありますので、目を通しておくようにすることがお勧めです。
年齢制限があるので注意しよう
自治体によって募集する行政保健師の年齢制限が違う場合があるため、求人の募集要項が出た時点でチェックが必要です。
例えば、横浜市職員の採用試験の場合、行政保健師の年齢制限は2020年4月1日現在で、36歳までと決められています。
経験年数などの条件はない
行政保健師は新卒採用も行っているため、看護師・保健師として働いた経験年数や条件などは基本的にはありません。
しかし、3次試験などで面接が行われるため、転職を希望している方で働いていない空白の期間が長い方は理由を説明できない場合厳しくなるかもしれません。
倍率が高いため、遠方の自治体も採用試験を受けよう
行政保健師は、看護師・保健師ともに人気があります。
例えば、横浜市の場合、前年の試験実施状況では25名程度の募集に104名応募があります。
そのため、正職員の行政保健師になりたければ、自宅から通える範囲だけでなく、少々遠方の自治体の試験を受ける覚悟が必要です。
また、自治体によっては非常に倍率が高いところもあるため、受験する自治体は1ヶ所に絞り込むのではなく、複数目途をつけておくようにしましょう。
求人募集が多い時期
行政保健師の求人が多い時期は、5~7月の間・10月頃などの時期が多いと言えます。
しかし、こちらも自治体によって異なるため、全国を見ると今現在募集している行政保健師求人も必ず実在します。
(2)臨時職員の行政保健師求人もある

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行政保健師として働くことに、正職員としてこだわらない場合は、産休、育休の職員の代わりの臨時職員を募集することもあります。
しかし、このような募集は「どこの地域で」「いつごろ求人が出るか」など、まったく分かりませんので、看護師専用の転職サイトなどに複数登録しておくと見逃すことが減ります。
臨時職員(非常勤)でも勤務時間が選べないため注意
臨時職員で採用されたとしても9時~17時までの勤務時間となることが多く、子育て中の保健師にとっては難しい方もいると思います。
看護師のように午前だけの勤務を希望する等、柔軟に勤務時間を選べません。
また、実際の現場は、常に産休・育休の保健師がおり、代替として臨時職員の保健師が採用されますが正職員にはなれず、任期が満了すると次の職場を探さなければなりません。
(3)働くために行政保健師の年収を確認しよう

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行政保健師は、市町村や都道府県が設置している保健センターや保健所で勤務している地方公務員となるので、その給与も地方公務員の給与体系に準じている場合が多いです。
(自治体によって異なる場合があるため注意してください。)
ただ、全国で統一がなされているわけではないので、勤務する自治体が詳細を決定しているため注意しましょう。
一般的に専門学校卒業、短大卒業、大学卒業というような年齢によって、初年度からその給与には差が出ていることが多いです。
保健師の体験談:30代後半で年収は500万円超
行政保健師になった場合、年々昇給していきますので、30代後半で約500万円から約600万円の年収となり、月収で見れば約30万円ほどです。
(4)公務員試験の対策や勉強

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公務員試験は自治体によって多少異なる場合があるため、採用試験受験案内などを確認して公務員試験の対策を行いましょう。
以下、横浜市の例をご紹介します。
一次試験 | ・一般教養(大学卒業程度の一般的知識) ・専門知識(公衆衛生看護学、疫学、保健統計学、保健医療福祉行政論 ) |
二次試験 | ・一般論文 (一次試験で同時に行う場合もある) |
三次試験 | ・面接 |
保健師の体験談:私の試験対策方法
私の場合は試験対策として、
- 本屋に売っている公務員試験の問題集を買って独学で勉強
- 高校時代に使っていた参考書で勉強
- 苦手分野は大学生である友人の妹から教わる
- 公務員として働いている友人から勉強を教わる
等の方法で勉強していました。
時事問題については、ニュースや新聞をよく見て政治や世界情勢を知ることを心がけ、専門知識の一般試験では「保健師の国家試験レベルの問題」もよく出題されているので、保健師国家試験の過去問題集はよく見ていました。
よく出る問題としては、
- 環境
- 健康
- 漢字の書き取り
- ことわざ
- 四字熟語
等があります。
また、行政保健師の公務員試験には二次・三次試験があり、私は「小論文トレーニング」を徹底的に行いました。
(5)各自治体の試験を受け合格する

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最後に行政保健師として働くには、各自治体の試験(公務員試験)を受ける、合格(採用)されることで行政保健師として働くことが出来ます。
地域によって異なりますが、近隣の市町村では試験日が重なることも多く、重なっている試験日の市町村を両方受験することはできないため注意しましょう。
保健師の体験談
私は比較的小規模な自治体の試験を受けました。
試験内容としては、
- 保健師としての心構えを問われる
- パソコンの知識の問題がある
- 小論文が必要
等、様々な試験問題がありました。
私は、高校を卒業してから全く数学・物理などの教科に触れておらず、公務員試験を受けることは大変厳しいものでしたが、試験に合格し行政保健師として働くことが出来ました。
また、一般教養で一次試験を通過する保健師は、国公立大学の看護学部を卒業した保健師が多い印象でした。
2.行政保健師の仕事内容

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行政保健師の仕事は、大まかに言えば管轄する自治体で生活している市民(住民)に対して健康管理を行うことです。
私が勤務していた自治体での1日のスケジュールは以下の通りです。
8:30~ | 始業 ・ミーティング ・メールチェック ・午前の事業の準備 ・パソコンでの資料作成等の事務作業 ・上司や他機関との会議等 |
10:00~ | ・午前の事業開始 (健診・訪問活動・健康教育・保健指導など) |
12:00~ | ・昼食 |
13:00~ | ・午後の事業の準備 |
14:00~ | ・午後の事業開始 (健診・訪問活動・健康教育・保健指導など) |
16:00~ | ・事業終了 ・後片付け ・記録作業 ・パソコンでの資料作成等の事務作業 ・上司や他機関との会議等 |
17:00 | 終業 |
行政保健師は日々の事業内容により異なり、
- 健診がある日は、朝から夕方まで健診業務に携わる
- 事業がない日は、一日中パソコンに向かって事務作業をする
- 1日中会議をする
等、様々な働き方をするため病院で働く看護師とは仕事内容が全く異なります。
具体的な仕事内容を私の体験談から説明いたします。
(1)健康診断(健診)の実施とお知らせ

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行政保健師の仕事の1つに自治体が主催して行う健康診断などがあります。簡単に健康診断と言っても、ただ企画して実施すれば良いというわけではありません。
まずは、健康診断の対象である住民にお知らせを出さなければなりませんし、地域ごとに健康診断の日程が違っていれば、複数の日に分けて健康診断を行うなど調整も必要です。
診断結果をもとにさらに検査を勧める
健康診断の診断結果次第では、精密検査をはじめ更に検査を受けるよう勧めるということも、行政保健師の仕事です。
(2)健康についての悩みを聞いてアドバイス

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管轄している地域住民の健康についての悩みを聞く、ということも行政保健師の大切な仕事です。
生活していれは、誰でも健康について何かしらの不安を抱えていることや、心配になるような症状が出たりすることもあります。
しかし、その度に病院に行くのは気が引けてしまったり、金銭的な問題で行けなかったりなどということもあります。
幅広い年齢層とのコミュニケーション力は必要です
行政保健師はその自治体に属しており、住んでいる全ての住民を対象に看護をするため、どの年齢層の方とも話ができるコミュニケーション力が必要です。
病院では、迷惑行為の患者を強制退院させることがありますが行政保健師は、いくら理解力が悪く家族や地域住民に迷惑をかけた対象者がいたとしても放置する訳にはいかず、問題を解決しなければなりません。
様々な年齢層の問題を解決するためには、対象者にわかりやすく何度も説明したり、訪問したりと様々な手段を使うことが必要です。
(3)予防治療

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行政保健師は、怪我や病気の治療を行うというよりも、健康を維持するために必要な予防治療がメインの仕事を行う必要があります。
看護師としての専門的な経験や技術はそこまで必要ではありませんが、看護師としての知識や臨床経験が役立つ場面は少なくありません。
(4)地域で起こる問題解決

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地域では、様々な年齢層で問題がおこるため行政保健師は、対象者やその家族に対して地域のサービスを活用・調整することも仕事の1つです。
例えば、認知症の症状のある独居高齢者の場合、
- 地域のどこに介護保険の事業所があるか
- どのようなサービスをしているか
等を知っておくことで、介護保険の利用を説明して申請を促すことやサービスにつなげることができます。
また、対象が子どもや精神疾患の方の場合は、どの対象者も地域で安心して生活が送れるようにするため、都道府県が管轄の保健所と連携して問題解決に努めることもあります。
介護保険外のサービスとして地域の見守り活動を行ってもらう等、様々な制度を活用して調整することが行政保健師には必要です。
(5)資料作成や会議など

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行政保健師は様々な資料を作成し、
- 上司に仕事内容を説明する
- 会議の場で発表する
等をするため、プレゼンテーションを行うことも仕事の1つです。
また、行政保健師は、人数が少ない専門職種であるため住民にどのような取り組みをしているかを説明し、理解を得られなければなりません。
そのため、自分の仕事をアピールするプレゼン能力が必要です。
パソコンスキルは必要です
行政保健師は、行政で働く公務員となるため公務員としての一般的な知識はもちろん、デスクワークも多いためパソコンスキルは必須です。
例えば、
- 広報に掲載する健康コラムを書くときはワード
- 健診結果のデータ処理はエクセル
- 健康教室の資料作成にはパワーポイント
等、パソコンスキルが求められます。
3.私が行政保健師として働いて感じたこと

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私は行政保健師として働き、健康教育や保健指導、健診等に来た住民と様々な話をして、仲良くなったり時には頼ってくれたりして嬉しかったです。
以下で、「私が体験したこと」「働いて感じたこと」を説明していきます。
行政保健師を目指す方にとってはメリット・デメリットになりえることだと思います。
(1)安定して働くことができる仕事

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行政保健師の場合、看護師と違って夜勤がないため、決まった曜日の習い事に通うことができるようになる等、看護師をしていた頃に比べるとプライベートが充実しました。
私は持病の腰痛がなくなり、睡眠不足が解消され健康的に仕事が出来たことが嬉しかったです。
また、行政保健師は地方公務員であるため、
- 産休・育休制度を多くの行政保健師が取得している
- 有給休暇が取りやすい
- 基本的には土日が休み
等の福利厚生も充実しています。
女性にとっては出産、子育てがしやすい点で働きやすい環境となっており、男性の保健師の多くも女性が出産や子育てで休暇を取ることに理解がある職場でした。
(2)事務作業・雑用の仕事が多かった

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行政保健師に限ったことではありませんが、保健師は事務作業や雑用が多いです。
例えば、
- ガーゼが足りなくなった時に買いに行く
- パソコンで支払い事務をする
- 健診で使用したタオルを洗濯する
等があります。
私が勤務していた自治体は、人手が少なかったため様々な雑務を行いましたが、大規模な自治体では保健師の業務に専念できる所もあるようです。
保健師の体験談
行政保健師でなくてもできる事務仕事が非常に多く、1日中事務をしていることもありました。
例えば、「健康教室を開催するチラシ作りの場合は1からパソコンで作成、輪転機で印刷する」「新聞折り込みをする場合は、新聞業者に持ち込む」等、とにかく事務仕事が多く非常に辛かったです。
私が事務や雑用に慣れない頃は、「こんな印刷仕事ばかりするために保健師になった訳じゃないのに」と涙が出たこともありました。
(3)業務範囲が幅広く残業もある
行政保健師の業務には保健活動だけでなく事務的な業務も多いので、残業は多い傾向にあります。
業務の範囲が非常に幅広いために、その対応に追われてストレスの原因となることもあると思いました。
(4)交友関係が広がった

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私は、今までは看護師として医療の世界に没頭していましたが、行政保健師として働くと上司や同僚が事務職であるため交友関係が大きく変わりました。
私の場合は、
- 医療系ではない大学を卒業した人
- 過去に一般企業で働いていた人
- 元教師
- システムエンジニア
等、様々な人と知り合うことや一緒に働くことができました。
行政保健師になることで、様々な経歴がある上司や同僚から話を聞くことができ「自分は今まで狭い分野で生きてきたのだ」と気づいて非常に視野が広がりました。
人間関係に苦労する方もいるそうです
看護師であれば、「人間関係や仕事内容に疑問を感じて他の病院に転職する」ことはよくありますが行政保健師は、正規雇用の枠が少ないため転職を繰り返すことは難しいです。
そのため、人間関係につまずいたとしても同じ自治体に所属しているため顔を合わせなければなりません。
4.最後に
ここ最近は看護大学も増え、看護師と保健師両方の資格を取得している看護師も多いため、今後の進路の1つとして行政保健師の仕事の内容をお伝えしました。
行政保健師は、病院での看護業務とは全く異なった仕事をするという認識をして下さい。
実際に、私も病院勤務から転職して行政保健師となったため、病院での勤務から転職を考えている保健師資格を持っている看護師は、進路の道も開けるでしょう。
行政保健師へ転職を考えている看護師は、是非参考にしてみて下さい。
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