白血病とは「造血器腫瘍」であり、正常では骨髄中にしかみられない細胞が末梢血に出現し、様々な症状を引き起こす疾患です。
白血病の検査や治療には、身体的苦痛を伴うものが多く入院が長期化することもしばしばあります。
また、患者は死への恐怖から精神的苦痛も抱えることとなり、患者だけではなく家族のケアも必要になるなど、血液内科で勤務する看護師のケアは多岐にわたります。
今回は、白血病の患者をケアするにあたり、必要なその知識と看護をまとめました。
白血病の種類と症状
白血病は、増殖する白血球の種類によってリンパ性と骨髄性に分けられ、さらに症状は急性白血病と慢性白血病に分けられます。
以下に白血病の種類の内訳と急性・慢性の症状について詳しく説明していきます。
白血病の種類の内訳
日本人では、急性白血病が75%を占め慢性白血病は25%です。
その内訳は
- 急性骨髄性白血病(AML)56%
- 急性リンパ性白血病(ALL)19%
- 慢性骨髄性白血病(CML)22%
- 慢性リンパ性白血病(CLL)3%
となっています。
慢性白血病は、急性転化を起こし急性白血病のような症状になることがありますが、急性白血病が慢性化することはありません。
いずれにせよ、基本的な治療は化学療法となります。
急性白血病の症状
急性白血病の症状として、貧血、全身倦怠感、軽労作時の息切れ・動機、長引く風邪症状、易出血傾向などがあります。
慢性白血病の症状
慢性白血病の初期に自覚症状はなく、健康診断時などに発見されることも多いです。
肝臓や脾臓の、腫脹や全身倦怠感を伴うこともあります。
病状が進行すると急性白血病と同じような貧血、全身倦怠感、軽労作時の息切れ・動機、長引く風邪症状、易出血傾向といった症状が現れます。
白血病の治療法
白血病においては、化学療法が基本で抗がん剤の投与によって増殖した白血病細胞を死滅させ、正常な血液細胞を増やすことが第一の治療法です。
寛解導入療法
- 治療目標:白血病の寛解を目指す。
白血病の治療では、まず寛解(骨髄や末梢血の中の白血病細胞がほとんどなくなった状態。初発期にあった症状もほとんど消失する)を目指します。これを寛解導入療法といいます。
通常、抗がん剤の投与は7日間から10日間で、抗がん剤は多剤併用となります。
抗がん剤を投与すると、白血病細胞だけではなく正常な血液細胞も減少し、副作用が投与後から出始めます。
抗がん剤投与後は、赤血球や血小板が極端に減少することがあり、輸血が必要となります。白血球は自然に増えてくるのを待ちますが、それには約4週間ほどかかります。
白血球が回復したころに骨髄穿刺を行い、寛解状態になっているか確認します。
ポイント!
抗がん剤の副作用には、吐気・嘔吐、脱毛、食欲不振、易感染性、口腔粘膜のただれなどがあります。
地固め療法
- 治療目標:寛解導入療法で5パーセント以下になった白血病細胞をさらに死滅させ根治させる。
寛解導入療法で寛解となったら血球細胞の回復確認を行い、次に地固め療法に入ります。
この地固め療法でも、強い抗がん剤が投与されるため寛解導入療法と同じような吐気・嘔吐、脱毛、食欲不振、易感染性、口腔粘膜のただれ等の副作用が出現します。
寛解維持療法
- 治療目標:寛解状態を長期間維持する。
寛解導入療法と地固め療法で、白血病細胞がほぼ死滅した状態になったら、出来る限り寛解状態を維持できるよう定期的に通院し、弱めの抗がん剤を投与します。
造血幹細胞移植(予後不良の場合)
予後不良群となる患者は、生存率を上げるための治療に造血幹細胞移植が選択されます。造血幹細胞移植では、白血病細胞の染色体分析で予後を予測することができます。
造血幹細胞移植は、抗がん剤投与や放射線治療などの移植前処置を受けた後に無菌室で行います。
移植後には、免疫抑制剤の投与が行われ移植が成功すれば、2~3週間で血液細胞が増え定着します。
ただし、造血幹細胞移植でも抗がん剤を用いた時と同様の副作用が生じます。
また、造血幹細胞移植ではGVHD(移植片対宿主病)が起こることがあり皮膚や肝臓、腸にその症状が出ます。
ポイント!
白血病の検査には、血液検査・骨髄穿刺(染色体検査、遺伝子検査)・腹部CT・超音波検査などがあります。
白血病の看護計画
白血病の治療では、化学療法が基本であることから看護は、易感染や易出血、悪心・嘔吐や食欲不振、脱毛などその副作用に重点が置かれます。
全身にあらわれる症状によって、日常生活を送ることが困難となる場合もあるため、ケアが必要です。
また、死をイメージしやすい疾患であり、精神面のフォローも看護の上では大切です。
「♯感染リスク状態」の看護計画
目標 | 上気道感染・皮膚感染・尿路感染を起こさない |
OP (観察項目) | ・検査データ ・バイタルサイン、熱型、呼吸状態 ・治療開始後の日数 ・感染徴候 ・リンパ節の腫脹 ・顔色、皮膚色 ・排尿回数 ・水分摂取量、食事摂取量 ・セルフケア能力 ・自覚症状 ・表情や言動 ・家族の理解度 |
TP (ケア項目) | ・入り口のドアは必ず閉める ・医療処置による感染予防 ・手を触れる部分の消毒 ・室温、湿度管理 ・粘膜、皮膚のケア ・上気道感染の予防 ・腸管からの感染予防 ・全身状態の管理 ・精神ストレスの軽減 ・セルフケア行動の実施 ・面会時の感染予防に関する注意事項遵守 |
EP (教育・指導項目) | ・感染しやすい状態であると説明後、予防の必要性について指導する ・日常生活における感染予防のためのセルフケアに関して説明をする ・加熱食以外は摂取しない |
「♯出血リスク状態」の看護計画
目標 | 出血の徴候を早期に発見できる |
OP (観察項目) | ・血液データ ・バイタルサイン ・皮膚、粘膜の出血班の有無 ・排泄物の潜血反応 |
TP (ケア項目) | ・採血、点滴時は可能な限り細いゲージの針を使用する ・血圧測定は必要時とする ・剃刀は使用しない ・歯ブラシは柔らかいものを使う ・転倒予防のため環境整備を行う ・止血しにくい場合 出血部位を長めに圧迫 鼻出血時には体位を整え圧迫し冷罨法、ボスミン綿球を使用する ・家族の理解度 |
EP (教育・指導項目) | ・寝具は柔らかいものを使用する ・安静の保持を説明する ・口腔内から出血したときには清潔な冷水で含嗽をする (止血しにくいようなら看護師に知らせるよう説明する) ・乾燥予防に努めるよう指導する ・陰部・肛門部の清潔保持をするよう指導する ・打撲や皮膚粘膜の損傷に関して細心の注意を払うよう指導する ・異常に出血した際、止血しない際にはすぐに看護師に知らせるよう指導する ・家族にも同様の説明を行い、揚力を得る |
「♯貧血」の看護計画
目標 | 危険防止ができる |
OP (観察項目) | ・バイタルサイン ・顔色、眼瞼結膜、爪の状態 ・倦怠感、めまい、息切れ、ふらつき、頭重感、動機、口内炎の有無 |
TP (ケア項目) | ・状態に応じてADL介助を行う ・含嗽を行い、口腔内を清潔に保つ ・移動時はゆっくり行う ・輸血施行時は副作用の出現有無をチェックする |
EP (教育・指導項目) | ・安静の必要性を説明する ・立ちくらみ時の対処法を指導する |
「♯不安」の看護計画
目標 | 心配や不安がなくなったことが表現できる |
OP (観察項目) | ・不安言動や行動の有無 ・睡眠状態 ・安静度 ・食欲、食事摂取量 ・疾患、治療に関する理解度 ・不安の原因 ・精神状態 ・社会資源の活用 |
TP (ケア項目) | ・共感的、受容的態度で接し患者と信頼関係を築く ・疾患や治療に関して不安な部分を話してもらう ・治療内容や点滴時間など前もって説明を行う ・医師の指示により必要時は安定剤や睡眠導入剤を使用する ・不安の理由が明らかな場合は早期に解消できるよう対処を行う ・ケアワーカーなどの介入を依頼する ・家族への支援 |
EP (教育・指導項目) | ・患者の考えや感情を自由に表現してよいことを伝える ・検査データによって安静度が変わることを説明する |
「♯口腔粘膜の損傷」の看護計画
目標 | 口腔内の疼痛、違和感、不快感がなくなり食事が摂取できる |
OP (観察項目) | ・食事摂取量 ・口腔内の潰瘍の有無、程度、部位、疼痛の程度 ・出血の有無 |
TP (ケア項目) | ・予防として治療前から薬剤で含嗽をおこなう ・食前に局所麻酔剤入り含嗽水で含嗽する ・味の濃いものや熱いもの、冷たいものなどは避ける ・食後はすぐに歯磨きを行う ・半固形食など食べやすい形態への変更 |
EP (教育・指導項目) | ・口腔内の清潔を保持する必要性を説明し食後は必ず歯磨きをするよう指導する ・食べられるものを食べられるだけ摂取するよう説明する ・抗真菌薬の使用時は使い方を説明する |
「♯栄養状態の変調」の看護計画
目標 | 摂取可能な食べ物を選択して摂取できる |
OP (観察項目) | ・悪心、嘔吐の有無 ・食事摂取量、水分摂取量 ・吐物の性状と量 ・脱水症状の有無 ・IN-OUTバランス ・体重変化 ・口腔粘膜の状態 ・味覚の変化の有無 |
TP (ケア項目) | ・患者の施行を把握し家族の協力を得られるようにする ・食べられるものを食べられるだけ食べられるよう援助する ・医師の指示のも食前に局所麻酔入りの含嗽を試みる |
EP (教育・指導項目) | ・薬剤の副作用で悪心や嘔吐、口腔粘膜の荒れが起きることを説明 する ・脱水症状の危険を説明し、必要時は輸液を行うことを説明する |
「♯悪心・嘔吐」の看護計画
目標 | 嘔吐回数が減少し、悪心が軽減していることを言葉で表現できる 食欲が回復する |
OP (観察項目) | ・悪心の程度、発現時間、持続時間 ・悪心に関する患者の認識 ・悪心の誘発因子の有無 ・嘔吐物の性状 ・嘔吐の頻度 ・バイタルサイン ・顔色、表情 ・食事摂取量、水分摂取量 |
TP (ケア項目) | ・安楽な体位の工夫 ・腹部を緩める ・口腔内の清潔を保つ ・嘔吐後は冷水で含嗽を行う ・吐物は速やかに片づける ・安静を促す ・医師の指示に基づき制吐剤の使用を行う |
EP (教育・指導項目) | ・悪心の原因は薬剤の副作用であることを説明する ・悪心、嘔吐を誘発する因子があればそれらを回避する方法を説明する ・必要時は医師の指示のもと制吐剤を使用することを説明する |
「♯ボディイメージの障害」の看護計画
目標 | 状態が受容できる 清潔の保持ができる |
OP (観察項目) | ・脱毛の程度 ・表情 ・精神状態 |
TP (ケア項目) | ・枕元にタオルを敷いて毎日交換する ・ベッドサイドの清掃 ・同意が得られれば散髪を行う ・治療時、頭部冷罨法 |
EP (教育・指導項目) | ・薬剤の副作用で脱毛するが治療が終われば生えることを説明する ・洗髪を行い清潔の保持が大切であることを説明する ・不安があるときには何時でも看護師に話すよう説明する |
患者それぞれの状態に合わせた看護計画が必要
白血病の治療を進める上での看護計画は、上記の他にもセルフケア不足や睡眠障害など日常生活において様々な問題が次から次へと出てきます。
同じ薬剤を使っても、患者によって副作用の現れ方が異なることもあるので、患者それぞれの状態にあわせた看護計画が必要です。
患者を取り巻く社会的背景によって、更なる計画が必要になる場合があります。
白血病患者への看護で注意するポイント
看護計画を立てるにあたっては、患者が治療上どの段階にいるのかを常に把握しておくことが求められます。
化学療法後には、副作用の出現があることも把握しておくことが必要です。
以下に、看護をする上で必要なスキルについて詳しく説明していきます。
易感染状態時には「矛盾」が生じる
易感染状態時には、行動だけではなく食事も制限されます。
抗がん剤の副作用で、悪心や嘔吐が続くときには食べたいものを食べられるだけ、と指導しながらも易感染状態時には生ものや家庭で調理したもの、サンドイッチやコンビニ弁当など多くのものが禁止されます。
こういった矛盾をきちんと患者にわかりやすく説明できる手腕が必要です。
できるだけ早い段階で患者と信頼関係を築く必要がある
患者は、治療をする上で日常では見慣れないクリーンルームや無菌室へ入室することから、生活の不安や面会制限などの社会との隔離に伴う不安を抱えていることが多いです。
そのため、入院初めの患者は緊張によって本音を言えないこともあります。
その後の治療効果にも影響するため、できるだけ早い段階で信頼関係を築くようにしましょう。
家族の協力が必要不可欠
白血病患者が、入院・治療を行う上で家族の協力は不可欠となるため、あわせて指導することが大切です。
血液内科では、辛い抗がん剤治療を受けても思うように効果があらわれず、終末期を迎える患者も少なくありません。
そのような場合には、さらに家族へのケアを強化する必要があります。
まとめ
参考文献は以下の通りです。
- ナースのための白血病ノート 改訂第3版(南江堂出版、2003/8)
白血病の看護は、その病期や治療段階によって変化します。
患者はクリーンルームや無菌室など一般の病棟とは違った病室で長時間過ごさなければならず、非日常の空間でストレスを抱えることも少なくありません。
また、若い世代患者も多いことからライフステージに合わせた看護が求められることも覚えておきましょう。
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