助産師が妊婦の体重をうまく管理する方法

妊娠中の体重管理は、適切な出生体重と妊娠中の異常発生を減少させるために大切なことです。ひと昔前には、食事指導により体重管理を厳しく指導する病院がたくさんありましたが、今は就業妊婦も多く、一方的な食事指導だけでは体重管理は上手くいきません。

今までの食習慣を大幅に変更することなく、ライフスタイルを考慮した食事指導が大切です。今回、妊婦中の体重管理の考え方、効果的な指導につながる知識をまとめてみました。皆さんの参考になれば嬉しいです。

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妊娠中の体重増加の指標を教える

妊娠初診時に妊婦自身からの申告体重により、非妊娠時体重を把握します。申告時点で現体重より大幅な差異がある場合には、自己申告を再確認してください。

把握したら以下の点を確認しましょう。

  1. BMI=体重Kg÷(身長m)2 に当てはめ、適切体重を算出
  2. BMIを元に妊娠前の体格が痩せ(BMI<18.5)・普通(BMI18.5〜25)・肥満(BMI≧25)のどれにあたるか確認

確認できたら、妊娠初期から体重測定の習慣を身につけるように指導します。約10カ月に及ぶ妊娠期間を妊婦が主体的に体重コントロールしていくうえで非常に重要なことです。

合わせて、妊婦自身が妊娠中の体重増加の具体的目安を知ること、妊娠中の体重増加は何故起こるか理解できるようにすることも体重コントロールを成功させるために重要なこととなります。

妊娠中の体重増加の目安をご紹介します。

妊娠中の体重増加の目安

妊娠中には、母・児ともに変化が起こり必然的に体重は増えます。妊娠中の体重増加の目安は以下の通りです。

  • 痩せ+9〜12Kg
  • 普通+7〜12Kg
  • 肥満+5Kg

妊娠各期の増加量は妊娠初期(15週まで)1Kg程度であり、中期・後期(16週〜出生まで)300〜400g/週です。

体重増加の内訳

体重増加の内訳は以下の通りです。

  • 胎児:約3Kg
  • 胎盤:約600g
  • 羊水:約800g
  • 循環血液量:約1Kg
  • 胸、子宮など:約2Kg

全て合わせると約7〜8Kgの増加は必要となります。

ポイント!

ポイント

妊娠前から痩せすぎの妊婦には、ここで最低限必要な体重増加について理解してもらうことが重要です。

妊婦の体格別、母・児に及ぼす影響を教える

妊娠中の体重コントロールと聞くと、多くの人は体重増加を抑えることが重要だと考えます。しかし、最近増えてきている体重増加が少なすぎる妊婦が抱える問題については、あまり重要視されていないのが現状です。

助産師は妊婦に対して、目標は「妊娠中の体重増加」と定め、体重増加が少なすぎる場合に伴うリスク・分娩時の異常・産褥期の異常発生リスクについて、妊婦自身が理解できるように説明することです。

ここでのポイントは、自分の体格(痩せ・普通・肥満)だとどのリスクが高くなり、注意しなければいけないことは何かまで踏み込んで伝えることです。そうすることで、自分の問題だと認識してもらうことができます。

以下に、妊娠前の体格が肥満の妊婦の場合のリスクと、妊娠前の体格が痩せの妊婦の場合のリスクをご紹介します。

妊娠前の体格:肥満の予後・リスク

妊娠前の体格が「肥満」の妊婦は、以下のリスクがあります。

  • 妊娠糖尿病(GDM)
  • 妊娠高血圧症候群(PIH)
  • 分娩時異常(遷延分娩、異常出血、肩甲難産)
  • 産褥期異常(静脈血栓塞栓症、肺血栓塞栓症)

ここでは、妊娠糖尿病(GDM)と妊娠高血圧症候群(PIH)の詳しいご説明をいたします。

妊娠糖尿病(GDM)の詳細・起こりえる合併症・管理法

妊娠糖尿病とは、「妊娠中に初めて発見、発症した糖尿病に至っていない糖代謝異常のこと」を指します。妊娠糖尿病になると、以下のような合併症を引き起こす可能性があります。

  • 母体合併症:妊娠高血圧症候群、羊水過多、肩甲難産などのリスク
  • 胎児合併症:流産、巨大児、低血糖、多血症、子宮内胎児死亡などのリスク

妊娠糖尿病女性は将来、糖尿病発生率が高くなるリスクがあります。

助産師の管理法は、妊娠中は血糖自己測定(食前血糖値100mg/dl未満、食後2時間血糖値120mg/dl未満、HbA1c6.2%未満を目標)、食事療法から開始、血糖コントロール不良なら、インスリン療法考慮してください。

ポイント!

ポイント

妊娠糖尿病リスク妊婦は、家族歴、妊娠歴などの背景をしっかり聴取することでもピックアップすることができます。

妊娠高血圧症候群(PIH)の詳細・起こりえる合併症・管理法

妊娠高血圧症候群とは、「妊娠20週以降、分娩後12週まで高血圧が見られる場合、または高血圧に蛋白尿を伴ういずれかの場合で、かつこれらの症状が単に妊娠の偶発合併症によるものではないもの」を指します。

妊娠高血圧症候群になると、以下のような合併症を引き起こす可能性があります。

  • 母体合併症:脳血管障害、子癇発作、HELLP症候群、常位胎盤早期剥離
  • 胎児合併症:胎児発育不全、胎児機能不全

助産師の管理法は、食事療法・安静療法です。コントロール不良なら、降圧剤・発作予防に硫酸マグネシウム投与をしてください。根本的治療は、妊娠終結のみです。

また、以下のような症状がでたら要注意です。対処法もご紹介しますので確認してください。

症状対処法
血圧が180/120を超過・産婦を1人にしない
・最低でも15分毎の持続的血圧測定
・持続的な胎児心拍モニタリング
(胎児機能不全、遅発一過性徐脈の出現に注意)
・観察を強化
下腹部痛・突然の子宮収縮・常位胎盤早期剥離を疑う
・持続的な胎児心拍のモニタリング
・子宮収縮をモニタリング
・帝王切開の可能性を考慮した準備
心窩部痛・嘔気・HELLP症候群を疑う
・血圧測定
・頭痛の有無確認
・血液検査(肝機能、血算、凝固)

助産師はすぐに対応できるようになっていてください。

妊娠前の体格: 痩せの予後・リスク

妊娠前の体格が「痩せ」の妊婦は、以下のリスクがあります。

  • 切迫早産
  • 低出生体重児

「成人病胎児期発症説」を聞いたことはありますか。胎内で低栄養状態のまま発育した場合、出生体重は低下し、将来生活習慣病(高血圧、糖尿病など)の発症リスクが高くなるという説です。

痩せの人の場合、妊婦自身の妊娠中の栄養状態が生まれてくる児の将来に影響するという知識を知ってもらうことが重要です。そのうえで、妊娠期を通して7〜8Kgの体重増加が必要だと伝えることで効果的な指導につながります。

妊娠中の効果的な体重管理指導をする

助産師はまず、妊婦自身が仕事を持っているのかどうかを知る必要があります。専業主婦なのか、仕事をしているのであれば仕事のハードさ・内容・職業、拘束時間などの職業についての情報を把握してください。

合わせて、家族の協力や生活習慣などにも広げて情報を得ます。そこから何が、誰がキーポイントになるのかを導き、どこへ働きかけるべきか、何を変えてもらうべきかなどを考えます。

以下に効果的な体重管理指導方法をご紹介いたします。

体重測定を習慣化するよう指導する

妊娠中の最も効果的な体重管理指導の1つは、毎日の体重測定を促すことです。少なくとも週に1回は測定してもらうように指導しましょう。体重測定の習慣化ができているか否かで、妊娠中の体重コントロールが上手くいくかが決まります。

なぜなら、起床時体重測定→「思ったより増えている」→「昼食は減らそう」「夕食もカロリーの低いものにしよう」と、自然と体重コントロールできる行動ができてしまうのです。

特に体重増加が目立ち始める中期からは、500g/週以上だとリスクが高まることも強調し指導に含めます。妊婦自身に体重測定を継続する重要性を理解してもらうことが大切です。

食事は和食を中心にバランスよく摂るよう指導する

簡単で効果的な食事指導は、和食中心の食事に変えてみることを勧めることです。仕事があって昼食は外食やコンビニ弁当だったとしても、最初の取り組みとして「和食を摂る」ことを意識してもらいます

栄養が偏りがちな外食やコンビニ弁当が、和食を意識するだけで、ごはん・お味噌・魚・肉・野菜を摂るようになり、少なくとも今よりバランス良い食事に近づくはずです。

万歩計を持つよう指導する

体重同様、万歩計を持っていると歩いた歩数を意識することなく自覚できます。今はスマートフォンを持って歩いているだけで、歩数を記録される機能を備えたアプリもあるのでお勧めしてみましょう

毎日記録することで、歩数が少なければ明日はもう少し歩かないといけないな、などと意識し、知らない間にしっかりと歩くことができます。新たな運動習慣を身につけることを目指すより、毎日の生活に欠かせないウォーキングから始めてもらいましょう。

まとめ

この記事は、以下を参考文献とし執筆しています。

妊婦が自分でできる母体・児への大きなプレゼントが妊娠中の体重管理です。「妊娠したら体重計を購入する。毎日体重測定し記録する」これが習慣化できれば、妊娠期の大きなハードルを1つ超えたことになります。

私たちは、妊娠初期から関わるプロとして、ストレスをかけすぎず妊婦を支え、効果的な指導となるよう自分の知識を更新していくことが大切です。

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