助産師が知っておくと役立つ知識として、近年の妊産婦を取り巻く様々な問題が挙げられます。
その中でも、少子化の進行、高齢出産の増加、精神疾患など合併症妊娠の増加や若年妊娠など「望まない妊娠」による児童虐待問題も大きな課題とされています。
今回は、今どき妊婦に焦点を当て、今どき妊婦の抱える問題、今後助産師としてどのような支援ができるか等について説明します。助産師の方は是非参考にしてください。
助産師が今どき妊婦に注意したいこと
助産師が今どき妊婦に注意したいこととして、孤立育児が挙げられます。今の妊産婦が少子化の環境で育ったために、周りに育児経験がある友人が少なく、核家族化や地域との希薄な関係性が広がっているからです。
この他にも多くある、助産師が今どき妊婦に注意したいことを以下にご紹介します。
新生児に対する虐待の過多
2016年度に厚生労働省が発表した「子ども虐待による死亡事故等の検証結果」によると、心中以外の虐待死では61.4%が0歳児です。このうち55.6%が生後1ヶ月未満に死亡し、うち約50%が望まない妊娠でした。
助産師は、新生児に対する虐待の現状を妊産婦に知ってもらうことで現状の改善につながります。
妊娠期からの虐待対策
新生児に対する虐待が、過多であることの課題として「妊娠期からの児童虐待防止対策」が挙げられます。
その対策では、妊娠期からのハイリスク要因やハイリスク妊婦、特定妊婦の抽出により胎児・新生児・乳幼児の虐待予防が行われています。
精神疾患(うつ病)の発生
妊娠・出産に伴う女性ホルモンの大きな変化は、女性の一生の中で最もうつ病が起こりやすい時期です。
うつ病になると自分自身の置かれている環境を悪く考えるようになります。妊産婦でうつ病になると「自分は母親になる資格がない」「赤ちゃんが可愛く思えない」などの感情がでてくるようになります。
このような悪い方向に考える感情が出てくるのは、過度のストレスが原因です。この過度のストレスは、妊娠・出産による女性ホルモンの変化で脳がストレスに耐える抵抗力を低下させ、脳が機能不全に陥るために発生するものです。このような過度のストレスに対する対策は、助産師や家族などの十分な周囲のサポートが必要です。
妊婦を取り巻く支援の現状・課題
妊婦に対する支援は、個人情報の取り扱いが厳密化したことによりスムーズに行われていませんでしたが、児童福祉法の改正により、積極的に介入できるようになりました。
しかし、依然として短時間で妊娠の葛藤が見抜けないことなどが課題として挙げられます。
このような、妊婦に対する支援の現状や課題を以下に詳しく説明していきます。
妊婦の支援に積極的な介入が可能になったこと
2008年度の児童福祉法改正により「望まない妊娠に戸惑う妊婦」「DVや虐待を受けたことのある妊婦」などのハイリスクな要因をもつ妊婦を特定妊婦とし、要保護児童対策地域協議会(要対協)の検討事例とし積極的に介入できるようになりました。
介入できるようになった理由としては、望まない妊娠やDVを受けたことのある妊婦が増えたことが挙げられます。
産前の特別支援を受ける妊婦もいる
出産後の子どもの養育において、出産前からの支援を特別に行うことが必要だと認められる妊婦を特別妊婦と言います。
課題は全てのハイリスク妊婦を抽出すること
助産師が、妊婦に対して挙げられる課題は以下の通りです。
- 短時間、一度の関わりでは妊娠の葛藤が見抜けないこと
- 母子健康手帳の未発行であること
- 妊娠後期に入ってから妊娠届けを出すこと
このようなことにより、全てのハイリスク妊婦を抽出することは困難な状況にあります。
医療機関と行政の連携で課題解決につながる
全てのハイリスク妊婦を抽出することは困難ですが、周産期の医療機関が行政と連携することで、「何かが気になる妊婦」、「妊娠を肯定的に受け入れられない妊婦」などの抽出ができると期待されています。
助産師として妊婦に接する際のポイント
助産師が妊婦に接する際、医療機関に受診した時点では特定妊婦に該当していなくても、外来での保健指導や受診状況、付き添い者などとの関係などを見ることで何かが気になる点を見つけることがポイントです。
以下に、助産師が妊婦に接する際の詳しいポイントを説明します。
特定妊婦をチェックリストで早期発見する
助産師目線で「何かが気になる」という点を具体的な早期発見につなげるために、日本産婦人科医会から、妊婦の精神状態や子どもへの関心、うつ病になる可能性の有無などにより特定妊婦を適性審査するチェックリストが提案されています。
そのチェックリストを活用し、これまで見逃されていた「何かが気になる妊婦」を見逃さないことができます。
早期に特定妊婦を見つけ出すことが早期介入につながります。このような早期介入の結果、特定妊婦の早期解決につながるということです。
妊婦に明確な情報とサポートを提供する
精神的ストレスを抱える妊婦へは「今、自分でやらなくて良いこと」「どのようなことに周囲のサポートを受ければ良いのか」という明確な情報を示すことが大事です。さらに、助産師は妊婦が不安に思っていることを相談できる存在であることが重要です。
明確な情報や助産師への相談は、妊婦の不安な気持ちを支える力になります。
補足説明!
助産師が関わることにより、妊婦に正しい情報を見極める力が付くため、育児能力の向上そして、ストレスの軽減にもつながります。
助産師としての今後の活動について
助産師として、妊産婦の虐待予防ばかりに目を向けるのではなく、妊娠から出産に至るまでの期間に「望まない出産を防ぐ」ということが大事です。具体的な支援内容を以下にまとめました。
妊娠した際の正しい知識の提供
10代の女性が妊娠した際に、中絶できる期間などについての正しい知識を提供することが助産師として支援する上で非常に重要なことです。
また、10代の女性が、妊娠の事実を受け止めるまでの期間を短縮し、出産するか中絶するか等、将来について考える時間を少しでも長く持てるように指導していくことも重要です。
現在、問題となっていることは学校での性教育がどんなに普及していても、いざ妊娠した恐れがあると発覚した時に、解決できる能力を持ち合わせていないことです。
月経不順などがあり、自分で体調の変化に気づいた時には既に妊娠2ヶ月目という場合も少なくありません。
そうすると、中絶するか否か考えられる時間は約1ヶ月しかありません。
10代のうちから正しい知識を身に付けるためにも、助産師から正しい知識を教えていく必要があります。
産婦人科は若者でも行きやすい場所にする
10代の女性にとって、産婦人科に行くということは、大人が思うより非常に高いハードルです。
なぜなら、親に言いだせない、学校になんと説明したらいいのかわからない等の問題が生じてくるからです。
このような、産婦人科に行きづらい10代女性の現状を把握して、行きやすい環境を整えていくことが必要です。
妊娠した時に相談できる環境を整える
まずは未成年が妊娠や中絶について学び、妊娠した時に相談できる環境を整える必要があります。
10代女性が悩んだ際の相談相手は、友達や兄弟、インターネットやSNSの情報などです。このように様々な情報が溢れる環境下で、何を信じれば良いのかと10代女性は悩んでいます。
助産師としては、少しでも悩んでいるなら早く産婦人科を受診すれば良いだろうと安易に考えます。
しかし、いざ未成年が中絶となると、親の同意が必要になります。
日本の医療機関では、親の同意がなければ未成年の中絶を躊躇するのが現状です。「親に言わないと、学校に知らせなくては」と考えると、10代女性は産婦人科の受診を拒んでしまいます。
その結果、お腹の膨らみによって親に気づかれ受診、産む以外の選択肢がないという最悪の事態を招いてしまいかねないのです。
助産師から妊娠・中絶について積極的に教えに行く
相談できずに妊娠・中絶の事態を招いてしまわないためにも、学校の教育で不十分な部分を、助産師が実際に学校に赴いて講演会を行う等の工夫が必要です。
少しでも悩みを抱えたら、恐れずに産婦人科を受診することや、具体的な中絶費用、緊急避妊薬の知識の提供も行っていくことが大事です。
まとめ
参考文献は以下の通りです。
このように、助産師は妊娠期から育児期を通して、特定妊婦と深く関わることができる立場にあります。
特定妊婦に深く関わる事が出来るからこそ、妊娠期からの虐待対策、精神疾患発生の抑制、退院後の孤立育児対策などの知識を特定妊婦に明確に伝えるべきです。
また、社会で隠れているハイリスク妊婦の問題については、医療機関が行政と連携するなどで課題解決に繋げていくことが重要になっていきます。
そして、助産師の今後の活動として、妊娠・中絶の正しい知識の提供や妊娠した際に相談できる環境を整えること等が必要です。
現状は少しずつであっても刻々と変化していくため、常に新しい情報を正しい知識として身に付けていきましょう。
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