COPDとは慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease)の頭文字をとって省略したもので、今まで、慢性気管支炎や肺気腫と呼ばれてきた閉塞性の肺疾患の総称です。
有毒な粒子やガスの吸入によって生じた、肺の炎症に起因する進行性の気流制限を呈する疾患のことを指します。
厚生労働省によると平成26年の時点でCOPDを有病している患者数は26.1万人とされ、平成27年の死亡順位は全疾患の中で10番目に多いとされています。
今後も増えることが予測されるCOPD患者を看護するにあたって注意しなければならない点はどのようなことなのでしょうか。
ここでは、COPD患者の症状や看護計画についてご紹介します。
COPDの患者の症状
以下の症状が見られると、一般的にCOPDが疑われます。
- 運動時(歩行や会談昇降など)に呼吸困難となる労作性呼吸困難
- 慢性的な咳や喀痰
また、喘鳴や発作性の呼吸困難といった喘息によく似た症状が見られることもあります。
進行するとどんな症状が現れる?
進行すると、胸郭の前後直径が増大してビール樽様になったり、くちすぼめ呼吸が見られたりします。
さらに進行すると低酸素血症を示すようになり、右心不全に陥ります。そのため頚静脈の怒張や下腿の浮腫が見られるようになります。
COPD患者で看護師が注意しなければならない症状
COPDの患者で看護師が注意しておきたい症状はCOPDが疑われる労作性呼吸困難や咳、喀痰です。
また、進行すればするほど呼吸が辛くなるため、辛さを解消するために教えたわけでもないのに自然と口すぼめ呼吸をする患者もいます。
これらの症状を見落とさずにチェックしましょう。
労作性呼吸困難がみられない場合もある
以下の患者の場合、労作性呼吸困難がみられないことがあります。
- 脳血管障害や心疾患などを罹患している
- あるいは後遺症によって活動が制限されている
その場合は咳や痰などの視覚で確認できる症状をしっかりとチェックしておく必要があります。
喘息との区別に注意する
中には咳や痰が出ていたり呼吸困難が見られたりしても、喘息と考えられてしまうこともあります。
COPDの多くは喫煙や、工場で勤務するあるいは工場地帯で生活するなど、有毒なガスを長期間吸入していたことによって罹患するということも、判断材料のひとつです。
ポイント!
疑わしい患者に対しては喫煙歴や生活歴の確認をすることも大切となります。
COPDの治療法とは?
COPDの治療法は禁煙指導が中心となり、他にも
- 薬物治療
- 呼吸リハビリテーション
- 在宅酸素療法
など、完治を目指すのではなく病気と向き合いながら重症化を予防し、日常生活を続けていくというものになります。
そのため、看護もこれらを踏まえたうえで計画を立案すべきとなります。
COPDの患者の看護計画
COPDの看護は、急性憎悪期と安定期でそれぞれ異なります。ここで、この2つの時期の看護計画についてご紹介します。
急性憎悪期の看護計画
急性憎悪期とは、安定していた状態から何らかの原因によって急激に呼吸機能が低下して、悪化を認めるものとなります。
- 呼吸機能を改善し、急性期を脱する
- 患者の不安を軽減する
悪化したことや呼吸困難により不安や死への恐怖が付きまとい、酸素需要の増加につながる
(二酸化炭素の体内での増量、低酸素血症は不安定な精神状態を生み出す) - 排便コントロールが行える
活動制限による運動量の低下、食事・飲水の制限により便秘になりやすい
(便秘は横隔膜の運動を妨げたり、排便時にいきむことで酸素消費量を増加させて呼吸困難へとつながったりする)
これらの問題を解決することで、急性憎悪期を脱していけるように看護を展開します。以下でそれぞれの看護計画をご紹介します。
#1 呼吸機能を改善し、急性期を脱する
看護目標 | 呼吸機能を改善し、急性期を脱する |
OP (観察項目) | ・バイタルサイン (血圧、体温、脈拍、Spo2、呼吸回数、呼吸リズム、心電図波形、酸素流量、呼吸音、胸郭の運動、末梢冷感、チアノーゼの有無、尿量) ・痰の有無(性状、量、色、自己喀痰の可否) ・咳の有無(性状、頻度) ・気道感染の有無(気道感染は急性憎悪の原因の1つとなるため) |
TP (ケア項目) | ・自己喀痰が可能であれば促す。不可能であれば吸引にて痰を吸引する ・用手的呼吸介助を行い喀痰を促す ・呼吸困難時には呼吸が楽にできるファウラー位またはセミファウラー位へ体位を整える ・病室をこまめに清掃、換気を行う ・痰が硬い場合は吸入やうがいを励行する ・気道感染が見られたら医師へ報告し抗菌薬などの治療薬を使用する |
EP (教育・指導項目) | ・呼吸困難時の呼吸法として口すぼめ呼吸や腹式呼吸を指導する ・呼吸困難感があればすぐに看護師を呼ぶよう指導する ・呼吸困難時に酸素流量を勝手に上げたりしないことを説明する |
#2 患者の不安を軽減する
看護目標 | 患者の不安を軽減する |
OP (観察項目) | ・呼吸状態(呼吸回数、リズム) ・患者の訴え(不安言動、症状に対する訴え) ・不安表情の有無 ・睡眠状況(睡眠時間、中途覚醒の有無、呼吸困難による覚醒の有無) ・家族の言動 |
TP (ケア項目) | ・患者の不安の訴えを傾聴する ・症状に対して不安の訴えがあれば症状に対して適宜対応する ・患者に不安が強い場合はしばらく患者に付き添い、1人にしないようにする ・呼吸困難時あるいは睡眠前には安楽な体位をとる ・睡眠前には咳予防などの薬剤を使用して睡眠時間を確保する |
EP (教育・指導項目) | ・患者の治療の経過や予後など患者の希望があれば説明する ・安楽な体位を説明し、呼吸困難時は自己にて行うように説明する ・不安や苦痛があればいつでも訴えてよいことを説明する |
#3 排便コントロールが行える
看護目標 | 排便コントロールが行える |
OP (観察項目) | ・排便状況(排便回数、量、性状) ・腹痛の有無 ・呼吸状態(呼吸回数、呼吸の性状、リズム、Spo2) ・食事、水分の摂取状況 |
TP (ケア項目) | ・制限内で水分をこまめに摂取する ・腸内ガスが多く発生する食品の摂取は避ける ・規則的に排便できるようにトイレへ行く習慣をつける ・腹部を温罨法あるいはマッサージを行って排便が出やすいように促す ・食物繊維を多く含む食品を摂取する ・必要時には薬剤を使用して排便を促す |
EP (教育・指導項目) | ・水分をこまめに摂取するよう説明する ・自己にて腸蠕動を促すマッサージをするよう説明する |
安定期の看護計画
COPDは進行を遅らせることができても根治ができません。そのため、急性期を脱したら後は安定期が続きます。
安定期は節制や制限が多くなるため患者の精神的に負担が多くなります。そのため、プランを立案する際にはその患者の個別性を重視したものが求められます。
- 感染症を起こさずに経過できる
感染症はCOPDを悪化させる原因となる - 薬物療法を継続できる
COPDの症状を軽減するには、中断せずに継続した治療が必要 - バランスの取れた栄養をとる
COPDは消耗性疾患とされているため栄養が必要。低栄養となることで感染症にかかりやすくなる
これらの問題を解決するための看護計画をご紹介します。
#1 感染症を起こさずに経過できる
看護目標 | 感染症を起こさずに経過できる |
OP (観察項目) | ・バイタルサイン(体温、血圧、脈拍、呼吸回数、呼吸リズム、Spo2、呼吸音) ・食事摂取状況 ・外出の有無と程度(人込みへの外出の有無) ・家族内感染症罹患の有無 ・感冒症状の有無 |
TP (ケア項目) | ・インフルエンザなど感染症の予防接種を受ける ・手洗いうがいをこまめに行う ・混雑時や、感染症流行期の繁華街への行動を避ける ・外出時はマスクを着用する |
EP (教育・指導項目) | ・感冒症状が出現したらすぐに医療機関を受診するよう説明する ・外出時でも手指を清潔にできるよう速乾式アルコールやおしぼりを持ち歩くよう説明する |
#2 薬物療法を継続できる
看護目標 | 薬物療法を継続できる |
OP (観察項目) | ・呼吸状況(呼吸回数、呼吸リズム、呼吸音、呼吸困難感) ・薬物使用状況(用法容量を守って内服できているか) ・薬物の内容理解度(どの薬をなんのために内服しているか) |
TP (ケア項目) | ・内服カレンダーなどを作成し、決められた日に決められた時間に内服できるようにする ・吸入などは患者主体で手技を獲得させる |
EP (教育・指導項目) | ・薬の作用、副作用を説明し自己中断しないよう説明する ・他の薬剤を使用する際には、飲み合わせがあるため必ず薬剤師などへ相談するよう説明する ・吸入の方法などは繰り返し説明する |
#3 バランスの取れた栄養を摂ることができる
看護目標 | バランスの取れた栄養を摂ることができる |
OP (観察項目) | ・食事摂取状況 ・嗜好品 ・体重 ・採血データ等による栄養状態 ・排便の有無と頻度 |
TP (ケア項目) | ・食事前後に休息できるような環境を整える ・排便が出ていなければ排便コントロールを行う ・部屋は換気をし、食事をしやすい環境を整える ・患者が食べやすい形態にする |
EP (教育・指導項目) | ・一度の食事でたくさん摂取が難しければ1日3食にこだわらず4~6回の分割食にすることを説明する ・退院後は自己で作ることが難しければ宅配サービスなどを利用することを説明する ・食事中拾があればこまめに休息をとるよう説明する |
COPDの患者の看護の注意点
COPDの患者の看護の注意点についてご紹介します。
急性期と安定期を分けて考える必要がある
COPDの患者の看護を考える上で注意したいことは、COPDとひとくくりでまとめないことです。
COPDには急性期と安定期によって看護が微妙に異なります。急性期と安定期をうまく分けて考えるということが必要です。
既往歴や生活歴に合わせた看護を展開する
COPDは、既往歴や生活歴によっても看護が微妙に異なります。
例えば、喫煙によってCOPDとなった場合は禁煙に対する指導が必要となり、工場地帯での生活によってのCOPDの場合その生活にそぐう看護を考えなければなりません。
患者の個別性や生活歴、また、病気が完治するものではなく付き合いながら生活をするということを考慮した上で看護を展開していく必要があります。
まとめ
以下の文献を参考にさせていただきました。
COPDは根治療法がなく、付き合い続けなければなりません。そのため、時期によって看護も変える必要があります。
患者の状況や生活背景を評価したうえで、治療が継続できるように支援していくことが、より良い看護を展開することにつながるでしょう。
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