心筋梗塞患者の看護(看護計画・症状・注意点)

心筋梗塞と狭心症を合わせた名称である虚血性心臓疾患は、日本において3大死因の1つとなっているほど危険な病気です。

心筋梗塞の原因は、高血圧や高コレステロール血症、肥満や高血糖などのほか、喫煙、アルコールの飲み過ぎ、ストレスなどによっても引き起こされます。

今回は、心筋梗塞患者の症状や看護計画、看護の注意点についてご説明します。

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心筋梗塞の症状

心筋梗塞の症状

まず、心筋梗塞によって起こる症状についてご説明します。症状は主に以下の2つにまとめられます。

  • 突然の胸の痛み・呼吸困難・動悸
  • その他の症状

心筋梗塞は、心臓を取り巻く血管(冠動脈)に動脈硬化が起こることによって血栓が形成され、それが詰って血流が低下し、心筋に必要な栄養や酸素が運ばれないことによって発生します。

以下で、これらの詳しい症状をご紹介します。

突然の胸の痛み・呼吸困難・動悸

「死ぬかもしれない」と感じるほどの胸の痛みが発生します。狭心症発作と違い、15分や30分程度では治まらず、痛みはずっと続きます。

さらに呼吸困難・動悸(胸がどきどきする感じ)を伴い、苦しくて倒れたり、意識がなくなったりすることもあります。

その他の症状

胸の痛みだけではなく、肩や背中・腕や首、歯にまで広がる痛みを感じることがあります。他にも、吐き気や嘔吐、末梢冷感、顔面蒼白などの症状があらわれることがあります。

心筋梗塞は、ひどい時にはそのまま突然死することもある怖い病気です。

看護師が注意しなければならない合併症

看護師が注意しなければならない合併症

心筋梗塞の患者が搬送され、意識が回復したとしても安心することはできません。なぜなら、その後に起こる5つの合併症に注意しなければならないからです。

  • 心破裂
  • 心室中隔穿孔
  • 僧帽弁閉鎖不全
  • 左心室瘤
  • 虚血性心筋症

これらの合併症は、どのように起こり、どのような症状をあらわすのか、以下で詳しくご説明します。

心破裂の原因と症状

心破裂とは、心臓に穴が開いてしまう状態のことを言います。心筋梗塞により壊死した心筋の壁がもろくなり、そこに内側からの圧力が加わり損傷することによって発生します。

好発時期は、発症後から4日以内に多く、1週間以内まで注意が必要です。

突然起こる血圧低下と呼吸困難に注意

突然血圧低下と呼吸困難があらわれたときには、心破裂の可能性があります。発見後手術をして助かることがありますが、突然死する場合も少なくありません。

心臓超音波検査で、心臓周囲に出血していないか確認します。

心室中隔穿孔の原因と症状

心破裂と同様に壊死した心筋に圧力が加わることによって起こりますが、この心室中隔穿孔の場合、心臓の外へ向かってではなく、内(右室と左室の間)に穴が開くことによって発生します。

呼吸困難が続いたりショック状態になったりしたら注意

胸痛が起こった後に、呼吸困難感やショック様症状が見られたら心室中隔穿孔の可能性が考えられます。心室中隔穿孔は聴診器で心雑音を確認することができます。

また、心臓カテーテル検査で、血流の流れの程度を確認します。

僧房弁閉鎖不全の原因と症状

心筋梗塞によって壊死した部分が僧房弁を支えている乳頭筋付近である場合、その筋肉がちぎれることによって、突然血液が逆流するという症状がみられます。

突然起こる呼吸困難・ショック症状に注意

僧房弁閉鎖不全の場合、心雑音で判断することができます。心臓超音波検査で心室内を観察し、逆流しているかどうか確認することで診断を確定します。

左心室瘤の原因と症状

心筋梗塞によって周囲の心筋がもろくなることによって、心臓が風船のように膨らむことがあり、これを心室瘤と呼びます。

左心室瘤ができると、効果的に左心室から全身へと血液を送ることができなくなるため、心機能が徐々に低下していきます。

呼吸困難や動悸、胸痛などの症状に注意

呼吸困難や動機・胸痛が見らえたら、心臓超音波検査や心臓CT検査、心臓カテーテル検査で診断を確定します。

虚血性心筋症の原因と症状

心筋梗塞によってもろくなってしまった左室心筋は動きが悪く、徐々に左室が大きくなりいびつになってしまうことによって、その他の部分の動きまで不安定になることを虚血性心筋症と言います。

呼吸困難や不整脈が見られたら注意

心臓超音波検査や心臓CT検査を行って、診断を確定します。

心筋梗塞患者の看護計画

心筋梗塞患者の看護計画

心筋梗塞を起こした患者を看護するときには、全身の循環状態の改善と、入院中・入院後の治療計画がスムーズに行われるように計画する必要があります。

ここでは、「#1心臓組織循環減少リスク状態」と「#2非効果的治療計画管理」という看護診断をもとに、立案した内容をご紹介します。

看護診断:#1:循環血液量減少に関連した心臓組織循環減少リスク状態

看護目標再梗塞が起きたときに適切な対処行動を起こす
再梗塞が起こらないように対処する
OP
(観察項目)

1.心筋梗塞の経過とその程度
・前回梗塞からの経過
・バイタルサイン測定(血圧低下・不整脈に注意)
・呼吸困難の有無/SpO2
・胸痛の有無
・意識レベル
・皮膚の湿潤/冷感/チアノーゼなど心原性ショック症状の有無

2.心電図モニターによる24時間チェック(合併症の徴候に注意)
・冠性T波/ST上昇/異常Q波の有無
・心室性期外収縮の有無/頻度/連発するか

3.検査データ
≪採血≫
・CK/CK-MB
・トロポニンT
・ミオグロビン
・GOT/GPT/LDH/CRP
・WBC/RBC/Hb/Ht/Plt
・TP/ALB
・HbA1c
・血糖
・血中ケトン体
・電解質バランス
≪心電図≫
・心筋梗塞出現時
・心臓リハビリテーション中
・安静時
≪心臓超音波検査≫
≪冠動脈CT≫
≪心臓カテーテル検査≫
≪胸部レントゲン写真≫
・心胸比

4.心筋梗塞が起きた時の状況について
・徴候の有無
・随伴症状の有無
・胸痛などの症状の程度/性質/部位
・前駆症状の自覚
・持続時間/頻度
・再梗塞に対する不安

5.水分出納のチェック

6.スワン・ガンツカテーテルによるモニタリング

7.患者や家族の疾患・治療についての理解レベル

8.患者や家族の不安の有無

9.心臓リハビリテーションの進行状況と受け入れているかの確認

TP
(ケア項目)
1.異常時は医師に報告する

2.薬物投与の管理
・モルヒネ
・血管拡張薬
・抗不整脈薬
・血栓溶解薬
・利尿薬
・ヘパリンなど

3.排泄・清潔ケアの支援
・排便がスムーズに出るように腰部温罨法を取り入れる

4.安静にできる環境整備
・室温/湿度の調整
・安楽な体位の保持

5.睡眠を促す支援

6.必要時、酸素投与

7.再梗塞を起こしたときには患者から離れないようにする

8.心臓リハビリテーションの実施
・運動負荷前後にバイタルサイン測定/十二誘導心電図をとる
・運動中は心電図モニター/パルスオキシメーターを装着しモニタリングする
・もし異常(STの変化など)があらわれたら中止とし、安静を促し、医師へ速やかに報告する
・リハビリテーション中は、あせらないように促す

9.必要時、冠動脈バイパス術をスムーズに受けることができる準備をする

EP
(教育・指導項目)
 ・身体に異変を感じたときには速やかに看護師を呼ぶ(ナースコールなど)ように指導する
・再梗塞を誘発する因子について説明する
・安静の必要性について理解を得る
・心臓過負荷徴候について説明する
・患者と家族に対し、不安なことは何でも話すように伝える

看護診断:#2:疾患や治療についての知識不足に関連した非効果的治療計画管理

看護目標疾患による症状とその管理方法について理解する
退院後の安静度を理解し、適度な運動を取り入れる
OP
(観察項目)
1.患者の背景
・現病歴/既往歴
・職業/性格
・日頃の健康管理で気を付けていること
・痛みに対する感受性2.排泄
・排便回数/性状
・排便時いきみはあるか

3.病気や病態についての理解度
・症状や成り立ち
・再梗塞を起こした時の対処方法

4.再梗塞を引き起こす危険因子の理解度
・喫煙/飲酒
・塩分の高い食事の過剰摂取
・日頃の運動量
・高脂血症/高血圧/糖尿病
・BMI値
・ストレス
・排便時のいきみ
・寒暖差

5.治療についての理解と受け入れているかの確認

6.ストレスの有無

7.運動負荷前後のバイタルサイン・症状の有無

8.生活環境の確認
・生活スタイル
・自宅とその周囲の環境
・人間関係

9.家族や職場などのサポート

10.指導中の言動

11.理解力の程度

TP
(ケア項目)

1.前屈位姿勢にならないように注意を促す

2.指導を受け入れやすい環境を作る
・入院生活に合わせた指導時間の設定
・個別指導と集団指導のどちらか選んでもらう
・ゆったりとした雰囲気で接する

3.指導内容の理解度をチェックする
・自由に発言できるように質問する
・自分の生活スタイルにあったレベルで理解しているのか確認する

4.励ましながら指導する
・生活スタイルを変更する辛さに共感する
・入院中に改善されている患者の行動を評価する

5.セルフケア能力が不足しているときには家族に対して指導を行う

EP
(教育・指導項目)
・BMIの標準を目指した食事と運動の指導を行う
・スムーズに排便できるような食事指導(水溶性食物繊維の摂取など)
・禁煙方法について説明し、必要であれば禁煙外来を紹介する
≪排泄≫
・廊下との寒暖差をなくす(トイレを暖めておく)ように指導する
≪入浴≫
・湯の温度に注意する(38℃~42℃)
・脱衣所と浴室の寒暖差をなくす
≪活動≫
・脱水に注意し、適宜水分補給をするように指導する
・性生活の指導
・ストレスを発散するためにも毎日運動するように指導する
・安静度に応じた活動を計画する
(ストレッチや室内でできる運動についても紹介する)
≪睡眠≫
・質の良い睡眠がとれるように指導する
≪室内環境≫
・外と室内の寒暖差を少なくする5.決められた薬を内服するように指導する

6.生活スタイルと再梗塞を予防する生活を比較し、実践レベルで話し合う

7.地域医療や社会資源の活用方法について指導する

退院指導には保健信念モデルを活用する

退院指導には保健信念モデルを活用する

心筋梗塞を起こした患者への退院指導は、今後再梗塞を起こさないための生活について理解させ、生活習慣を変化させなければならないため大切なポイントとなります。

そこで、患者に対して「保健信念モデル」を活用することをおすすめします。

保健信念モデルは中範囲理論のひとつで、別名「ヘルス・ビリーフ・モデル」とも呼ばれ、予防的な保健行動をとることが望まれる患者に対して活用されています。

保健信念モデルでは、健康行動を促進させる要因として、以下の3つをあげています。

  • 健康問題から生じる脅威
  • 脅威を避けることによっておこる利益
  • 行動の意思決定に影響する要因に対する認知

これらをトータル的に判断することによって、保健行動を上手くとることができるように促すことができます。以下でそれぞれ詳しくご説明します。

健康問題から生じる脅威

健康問題から生じる脅威としては、「脆弱性(脆弱=もろくて弱いこと)」、「重大性」について患者がどのように感じ、考えているのかが重要になります。

脆弱性とはある状態になる確率に関する信念のことをさし、重大性とはある状態やその結果の重篤さについての信念のことを言います。

例えば心筋梗塞を起こした患者の場合、「もし再梗塞を起こしたとしたらどれくらい重篤になると考えているのか」を聞きます。その再梗塞に対する認識が高いほど、保健行動を起こしやすいと判断できます。

  • 脆弱性に対しては、患者自身に起こるリスクを正確に認識させるように働きかける
  • 重大性には、今のままの状況と望ましい行動を取った後の結果の違いを伝えるようにする

こうすることで保健行動をスムーズに促すことができます。

脅威を避けることによっておこる利益

「脅威を避けることによっておこる利益」とは、脆弱性や重大性を回避した行動をとることによって、メリットがあると考えることになります。

例えば、禁煙行動をとることによって、再梗塞を起こす確率は少なくなり、結果、命の危険は少なくなると考えている場合は、保健行動を起こしやすいと言えるでしょう。

ポイント!

ポイント

いつ・どこで・なにを・どのように行動すればよいのか、また望ましい行動を起こした後のメリットは何かについて説明すると、保健行動に対して効果的な作用をもたらすことができます。

行動の意思決定に影響する要因に対する認知

「行動の意思決定に影響する要因に対する認知」は、さらに以下の3つに分類されます。

  • 認知された障害
  • 行動のきっかけ
  • 自己効力感

それぞれ以下でご説明します。

認知された障害

人は行動することが物質的・心理的にコストが高いと認知している場合、保健行動を取りにくいと考えられています。ここに問題がある場合には、元気付けたり、あらゆる支援を提供したり、誤った情報があれば訂正したりするようにしましょう。

行動のきっかけ

保健行動をとるために、準備していた段階から一歩踏み出すためのきっかけを探しましょう。

例えば、家族から散歩に誘ってもらうことや、本をプレゼントしその中の言葉をきっかけに行動できるように促しても良いでしょう。

自己効力感

自分は保健行動をとることができるという自信のことを、自己効力感といいます。

例えば、段階的な目標設定を行ったり、こちらが望ましい行動を見せたりすることで、「目標達成することが楽しい」、「自分でもやれる」といった感覚を持ってもらうようにしましょう。

まとめ

参考にさせていただいた文献は以下となります。

心筋梗塞の症状には、突然の胸の痛みや呼吸困難・動悸だけではなく、嘔気や嘔吐、歯の痛みなども起こります。特に、15分や30分以上続く胸の痛みには注意するようにしましょう。

また、心筋梗塞を起こした患者には、心破裂・心室中隔穿孔・僧房弁閉鎖不全・左心室瘤・虚血性心筋症などの合併症に十分注意しなければなりません。

心筋梗塞の患者の看護計画では、「心臓組織循環減少リスク状態」、「非効果的治療計画管理」の2本を柱として立案しました。

心臓リハビリテーションや退院指導については、「保健信念モデル」を活用して、効果が期待できるような働きかけができるようにしましょう。

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