「終末期」の定義は学会やガイドラインによって少しずつ異なりますが、おおむね「医療チームが検討しても治療による回復が見込めない」、「生命予後がおおよそ6か月以内」とされています。
終末期のがん患者は様々な症状が出現し始めるだけでなく、「抗がん剤などの治療をどのタイミングでやめるか」、「退院して家で過ごすのかどうか」といった意思決定が必要となるため、患者やその家族は多くの苦痛・悩みを抱えることになります。
このページでは、終末期のがん患者とその家族への「声かけ」について重要なポイントをご紹介します。
終末期のがん患者への声かけのポイント
終末期のがん患者本人に、看護師が声かけする際のポイントについてご紹介します。
何よりもまずは症状の緩和を行う
看護師はどうしても、患者の悩みを少しでも解決したいと心のケアを重要視します。しかしながら、患者と何かを話すには、身体的苦痛を緩和することが大前提となります。
自分に置き換えて想像しても、お腹が痛くてたまらない最中に、吐き気が続くその最中に、何か話しかけられても答えられないでしょう。
ましてや「今後どこで過ごしたいですか」といった大事な話を医療者に聞かれても考えようがありません。
特に終末期は、がんの種類にもよりますが、残りの時間が一ヶ月となった頃からは倦怠感やADLの低下、せん妄といった症状が急激に進行していきます。
患者にとって最も身近にいる看護師が患者の様子を観察し、適切なタイミングで薬剤を投与したり、苦痛の少ない方法でケアを行ったりということが症状の緩和につながるのです。
問診ばかりでなく外の環境などの話をする
看護師は症状を少しでも和らげたいと思うあまり症状に関する問診ばかり行なってしまう事があり、「一日に何度も同じ事を聞かれるけれど情報が共有されていないのか」と感じる患者もいるため注意が必要です。
時には、「昨夜は冷えましたね」「病院の近くの桜が咲きそうですよ」といった外の環境についての話も、思うように外出できなくなったり入院生活が長くなりつつあったりする患者にとっては新鮮に感じられ、場合によっては外出への意欲につながる意味のある会話になります。
日常の丁寧なケアの中で話をするタイミングを見計らう
看護師は患者の日常生活上のケアを丁寧に行ったうえで、「今日の体調なら少し込み入った話をしても大丈夫そうだ」といったタイミングを判断することが必要です。
患者は残された時間が短いほど、様々な症状が出現し自分でできることが少なくなっていきます。また、誰かと話すのにも多くのエネルギーを要するようになります。
まず患者の生理的欲求が満たされることが重要である
この頃の患者は、
- 「ベッド周囲がきれいに整理されて、ほしいと思った物にすぐ手が届く」
- 「昨日はよく眠れたので今日は気分がいい」
- 「便秘が解消されたので今日は少し食欲がある」
といった環境調整や生理的欲求がまず満たされることが重要です。
そのことで、患者側にも他人と話す余力が出てくるのです。日常のケアを丁寧に行うなかで、話をするタイミングをつかみましょう。
無理に聞き出すのではなく声かけの役割分担をする
「あの患者は自分から言わないけれど、本当の希望は何だろう」といった隠れたニーズについて疑問が出てくる看護師もいるかもしれません。
しかし、聞きたい内容や、患者と個々の看護師の関係性によっては無理にその日に聞き出すことがよい結果を生むとはかぎりません。
信頼関係のできている患者の担当看護師や、主任などの管理職者であれば、毎日のように顔を合わせていなくともここぞという時に大事な話をしよう、と患者に思ってもらえていることもあります。
ポイント!
若手の看護師であれば、日常的なケアを丁寧に行ったり体調のよい時に他愛ない会話をしたりする役割を担うことも、その人の残りの時間を過ごすうえで重要な役割を果たしているのです。
場合によっては、それが患者の思わぬ本音を引き出すことにもつながります。
意識障害の早期発見のための声かけをする
前述の通り、終末期でも残された時間が一ヶ月程度となってくると、睡眠障害やせん妄(意識障害による集中力の不足など)が生じてきます。
これを看護師が早期に気づくには、起きた出来事について本人と少し長めに話をする必要があります。
「はい、いいえ」で終わる会話だけでなく、「今日の昼食は何を召し上がったのですか」「先ほど面会に来られた方はどなたですか」といった質問を自然に行い、本人に自由に話してもらいます。
意識障害が進行すると、「ええと、何を食べたかな」と答えられなかったり、「面会なんて来ていないよ」と覚えていなかったりします。
補足!
意識障害は午後から夜間にかけて悪化する事が多いため、看護師が意図的にその時間帯を選んで声をかけてみることも症状の早期発見につながります。
患者の今後についての考えを整理するよう促す
患者と「今後はどこで過ごしたいと思うか」といったような込み入った話をしたいと考えている場合には、前もって話をしたいという意思を伝えておくことが良いでしょう。
「今後の事について、この後お話をする時間をいただいてよろしいですか」と、あらかじめ患者が頭の中で自分の考えを整理して準備するための声かけをすることも、看護師の大切な役割です。
終末期のがん患者の家族への声かけのポイント
終末期のがん患者の家族と接するうえで、「どんな話をしたらよいか」「どこまで話をしたらよいか」と悩む看護師も多いでしょう。
ここでは、実際に終末期のがん患者の家族と話をするうえで必要な知識や看護師の態度をふまえたうえで、どんな声かけが必要となるかについてご紹介します。
家族もケアの対象であることを意識する
終末期のがん患者の家族は、「患者を支える支援者としての役割」を担いながら、「患者との別れが近づくことに直面しなければならない」という二重の苦痛を背負っています。
そのため看護師は、患者を支える側の一員として家族と協力しながらも、家族は看護師のケアの対象者であると知っておく必要があります。
ポイント!
まずは患者自身の症状緩和や身の回りのケアを丁寧に行ったうえで、「ご家族の体調はいかがですか」「毎日面会に来られて大変ですね」といった家族に対する気遣いや労いの声かけから行うようにします。
必要なタイミングで家族一人一人の情報をつかみ整理する
本来ならば看護師は、入院するタイミングなど患者との関わりが始まるタイミングで家族関係について聞くことができればベストでしょう。
しかし、特に終末期のがん患者は、病状の変化のタイミングでそれまで疎遠だった家族が面会に現れる場合もあります。
そして、患者の身の回りの世話を主に行う配偶者などの家族に主眼を置きがちですが、「家族の中の重要な意思決定者は、滅多に来ない息子」といったパターンもみられます。
子どもなど家族が複数いる場合は、それぞれの続柄や事務手続き上のキーパーソンの確認だけでなく、どの家族がどんな役割を担ってどのような情報まで理解できているかといった関係性を整理しておくことが必要です。
看護師自身の「家族」に対する価値観はおさえる
患者の家族と関わっていくなかで、「家族なのにどうして面会に来ないのだろう」「近所に住んでいる子どもはどうして協力しないのだろう」といったモヤモヤを抱えることがあります。
これが終末期のがん患者の家族と関わるうえでの看護師の抱く困難感につながっていきます。
そんな時はまず、「患者が困った時は家族が一丸となって支えるべき」といった自分の中にある家族というものに対する思い込みや価値観を意識してみてください。
そのうえで、その家族のこれまでの歩みや関係性を整理し、患者が病気になる前のその家族の在り方を理解するようにします。
家族の悩みを聞くという姿勢を示す
いつでも話を聞くという姿勢を看護師が示すことは、患者の家族にとって重要なことです。
終末期のがん患者の家族は、「一日でも長く患者に生きていてほしい」と願う反面、
- 「このままの状態が続いたら医療費は払えるのだろうか」
- 「患者の世話も必要だが、家に戻って家事もしなければならない」
- 「子どもに患者の病状をどう伝えていいかわからない」
といった経済的な困難や家庭内の悩みを抱えていることがあります。
そして、そのような困難について医療者に相談して解決しようとは思いつかない家族が多いでしょう。
家族との基本的な信頼関係を築いたうえで、「何かお困りの事があれば、いつでもお話を聞きますよ」というメッセージを伝えることが大切です。
今後の病状予測について理解しやすいように伝える
「医師がお話したように、今後体調の変化のスピードが早くなることがあるかもしれません」と家族が理解しやすいようにかみくだいて伝えるのも看護師の重要な役割です。
家族のなかには、医師が繰り返し病状を説明しても実はよく理解していなかったり、ショックのあまり話の途中までしか頭に入っていなかったりすることがよくあります。
看護師からは急激に患者の様子が変わったように思えても、家族は気付いていないこともあります。
その場合には、医師がどのような説明を行ったか確認したうえで、「そばで見ていて最近の様子はいかがですか」と患者の病状や体調についての家族の理解状況をまず確認、そして今後を分かりやすく説明することが大切です。
まとめ
終末期の患者やその家族は、身体や心の「痛み」を抱えながら、様々な事に迷い悩んでいます。
それぞれの価値観が加わるため、「これが正解」といった明確な答えが得られないことも多く、医療者にとっても悩ましいと感じる出来事が増えていきます。
だからこそ、看護師チーム、医療・介護チームなどの多職種同士が協力・相談しあって、症状の緩和や患者・家族とのコミュニケーションに取り組んでいくことが大切です。
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