母乳は微量であっても免疫機能高い乳汁が分泌されるため、赤ちゃんに母乳を与えることで母親から受け取った免疫機能が働き、ウイルスなどの病原体から身体を守ることができると言われています。
また、授乳によって母親の身体を妊娠前の状態に戻そうというホルモンも分泌されるため、母親にとっても利点があります。(詳しくは、子宮復古と言います)
このように、母乳を与えることは多くの利点があるので、看護師は産褥婦に授乳支援をしなければなりません。今回は、産褥婦への授乳支援方法や授乳時トラブルの対処法について説明していきます。
産後直後から看護師が行う授乳支援のコツ
産後直後の母親は疲弊した状態にありますが、徐々に母性が芽生えてきます。
母親の中には、産後直後から母乳をあげたいと希望する人もいますが、産後は出血が増えたり血圧が安定しなかったりなど不安定な状況でもあるため、多くの産院ではおおむね出産してから1時間程経過してから授乳することが多いです。
以下に産後直後から看護師が行う授乳支援について詳しく説明していきます。
赤ちゃんに吸ってもらう機会を多く作る
母乳は産後直後からすぐに出てくる人もいれば、数日経過してもなかなか出てこない人など個人差があります。もし、母乳の出が悪い・でてこない場合でも、おっぱいは赤ちゃんに吸われることが大切です。
母乳を吸われることで、母親と赤ちゃんの間に愛着形成がされ、安心して赤ちゃんが過ごせます。また、赤ちゃんに吸われることで、乳汁分泌を促すホルモンが分泌されるため、母乳が出るようになってきます。
ですので、看護師はできるだけ赤ちゃんに母乳を吸ってもらえる機会を作らなければなりません。
ポイント!
産まれたばかりの赤ちゃんは、泣いていることが多いですが、母親の母乳を吸うことでと泣き止むことあります。また、授乳をすることで母親も穏やかな気持ちになるようです。
少しでも母親の負担が減るような授乳介助をする
母乳を出産直後に与える時は、お産による腹部の痛みやおしりにも痛みがあるため、看護師が授乳介助しながら行っていかなければなりません。介助方法は以下の手順で行います。
- ベッドで横になっている母親に、横向きになってもらうに促す
- 下側にくる腕を伸ばしてもらい、赤ちゃんを肩枕するようにポジショニングをとってもらう
- 看護師は丸めたタオルを使用し、赤ちゃんの体位を固定する
赤ちゃんの体位を固定することで母親が横向きで母乳をあげることができ、リラックスした状態で授乳できるようになります。
ポイント!
産まれたばかりの赤ちゃんは、周囲の環境にすぐに適応できないため、低体温を起こしてしまうことがあるため、母親が赤ちゃんに授乳する際、赤ちゃんの手足が冷えないようタオルを使用し赤ちゃんをおくるみにします。
授乳時、看護師・助産師は母親に寄り添う
授乳支援は、看護師1人で行うこともあれば、助産師と一緒に2人で行うこともあります。
看護師1人の時と、助産師とともに2人で授乳支援する時に大きな違いはありませんが、授乳時に母親や赤ちゃんの状態が急激に悪くなったりすることもあるため、二人が母親に寄り添うことは看護の視点からも重要です。
また、母親にとってスタッフが2人いることで安心感もあるようです。
母親の希望に合わせた対応をする
母親の中には、産後直後の授乳は希望せず休息を希望する人もいるため、母親の希望にあわせて臨機応変に対応していくことが必要です。
母乳を与えていくことに利点は多くありますが、ミルクだけでも問題はありません。そのため、授乳を拒否しても要望は否定せずに母親と関わり続けましょう。
授乳支援では母乳の利点だけを考えるのではなく、その人に見合った関わりが出来るよう、広い視野を持つことが必要です。
保護器を使用した授乳支援のコツ
母親が授乳する際、直接赤ちゃんがおっぱいを吸えれば問題はありませんが、乳首が陥没している人もいれば扁平な人もいるため、直接吸うことが難しいことがあります。
その場合、柔らかい素材でできているゴム製の保護器を使用し、赤ちゃんの哺乳を助けます。保護器を装着することで、赤ちゃんの口が乳首から離れずらくなり吸いやすくなります。
保護器を使用していく上で、乳首に赤ちゃんがどのように吸いつくのか、その状況をアセスメントし母親個々に合わせた支援が必要になります。
以下に、保護器を使用する際の授乳支援のポイントをご紹介いたします。
母親に保護器使用の目的をしっかり伝え、不安を軽減する
赤ちゃんが直接おっぱいを吸えず、不安を抱える母親もいるため、保護器の使用の目的やどのように使用していくかなどを説明し、不安軽減に努めていくことが必要です。
また、母親の不安を軽減するために保護器は必要なくなることもあると伝えておく必要があるでしょう。
赤ちゃんは成長とともに口が大きく開くようになり、扁平していたり陥没していたりする乳首であっても、口が乳首に固定され、おっぱいを吸えるようになるためです。
完全母乳希望の母親への授乳支援のコツ
母親が完全母乳希望であっても、母乳量が不足していれば赤ちゃんの体重が増加しないなどの成長発達に支障がでてしまう場合があります。
母乳の利点はありますが、母親がなかなか休息できないことや、赤ちゃんの成長発達に影響を与えることがあれば、ミルク摂取も検討していく必要も出てきます。
母親が、完全母乳希望であるときの看護師が行う授乳支援について、以下に詳しく説明していきます。
母乳を与える間隔を1~2時間に設定する
大体、おっぱいは3時間おきに与えていきますが、母乳だけでは3時間もたないことが多々あります。そのため、母乳育児は母乳を与える間隔を1~2時間と短くし、回数で量を稼いでいくような授乳方法を提案しましょう。
母親の要望を最大限に受け入れ、母親との関係性を良好保ち、状況に合わせた関わりが必要となります。
補足説明!
母乳だけでは3時間もたず、すぐにお腹がすいて赤ちゃんが泣いてしまいます。母親の同意が得られるのであれば、母乳のあとにミルクを足しましょう。
母親に適正体重を説明する
完全母乳希望の母親には、赤ちゃんの適正体重を説明する必要があります。完全母乳の場合、充分に母乳がでないと赤ちゃんの体重が減っていき、成長に支障をきたしてしまうためです。
体重の減少度合いについては、生まれた時の体重から10%以内の減少率であれば問題ないと言われています。これらのことを、母親に適時伝えながら関わっています。
ポイント!
赤ちゃんは生まれてから数日は体重が一時的に減っていきます。1週間ほどで生まれた時の体重にもどれば問題はありません。
時には医師から強い説明が必要な場合もある
体重が適正でないのにも関わらず、いくら説明しても母親からミルクを与える同意が得られない場合は、直接医師から「赤ちゃんの生命維持ができません。」など厳しい内容で説明することが必要です。
授乳時のトラブルの対処法
授乳は、どうしても乳首に圧力がかかるため、乳首に傷を作ってしまい出血するなどのトラブルがあります。そのため、母乳を与えることを躊躇してしまう母親もいます。
乳首のトラブルがある際は、うまく赤ちゃんのポジショニングがとれていない場合もあるため、授乳方法の見直しが必要です。
傷を作った場合は保湿する
産院や総合病院などによってケア方法が異なる場合もありますが、乳首に傷を作ってしまった時は乳首専用のクリームを塗り保湿をします。
他にも、乳首にラップを置く方法やガーゼを当てる方法もあります。
注意点!
保湿だけでなく、授乳をせずに乳首に刺激を与えないよう休息することも必要です。
母親が疲弊した際は休息時間を確保する
授乳する時は同じ姿勢を保つことが多いため、足のむくみや肩こりなどの身体的症状があります。むくみや肩こりが強くなると、当然身体がだるくもなります。
そのため、母親が休息する時間を確保できるよう、赤ちゃんを一時的にナースステーションで預かることも必要です。
足のむくみ対処法
足のむくみがひどい場合は、アロマオイルを使用し母親の足をマッサージするなど対応をしてあげましょう。方法としては、足湯マッサージ機にアロマオイルを入れむくみ解消を図ります。
肩こりの対処法
肩こりの場合についてはストレッチ方法を指導しますが、症状が増強したり続いたりする場合は、医師から漢方薬が処方されることがあります。
肩こりについては、血液循環を促すことが改善に繋がるため、両腕を上方に上げ肩を前後に大きく回すような方法を指導するのが良いでしょう。
まとめ
看護師であっても、助産師と同様に母親へ共通した関わりをしていきます。妊婦は、赤ちゃんが産まれたらすぐに母親となり、様々な育児ケアを取得していかなければなりません。
初めて母親になる人は不安が多く、自信をなくしてしまう人もいるし、産後はホルモンバランスが崩れて不安定な状態になるため、精神的フォローも大変重要です。
母親には、身体と心の変化があり赤ちゃん自身も日々成長し変化がみられることから、授乳支援は多くの変化がある中で行われていると言えるでしょう。そのため、日々同じ方法で看護ケアできるわけではありません。
母親の要望を受け入れつつ、その時の状況に見合ったケアができるよう関わっていくことが必要となります。
授乳支援は、様々な方法があり母親と同様、看護師自身も毎日が勉強です。
母親の要望を第一に、日々成長する赤ちゃんとともに母親自身が成長し、安心し育児に取り組んでいけるように支援していくことが必要です。
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