神経内科では決して珍しくない病気の脊髄小脳変性症。この疾患を題材にしたテレビドラマや脊髄小脳変性症患者の著書などで一時話題を呼んでいたため、一般の方でも知っている人が多いであろう疾患です。
しかし、他科でこの疾患を持っている人はなかなか診る機会が無いかと思います。今回は脊髄小脳変性症の看護についてご紹介していきます。
脊髄小脳変性症とは
脊髄小脳変性症とは、小脳及び脊髄、脳幹などの神経系統の変性疾患の総称です。遺伝性・非遺伝性に分かれていて、遺伝性のものに関しては遺伝子異常が次々と解明されているものの、非遺伝性のものは原因不明となっています。
10万人に対して20人ほどの発症率で、厚生労働省の特定疾患に認定されている病気の1つとなります。
脊髄小脳変性症の患者の症状
脊髄変性症の症状は小脳症状と言われる症状となります。
歩くときにふらつく、足を揃えていないと立てないなど身体のバランスが取れなくなる体幹失調、手が震えて字が書けなくなるなど手足の運動障害があらわれる四肢協調運動障害、眼球が細かく揺れる眼振、呂律が割らなくなる小脳性言語などがあります。
運動機能は重症度分類によって下肢機能障害、上司機能障害、会話障害の3つの障害をI度からV度に細かく分類することができます。
注意点!
脊髄小脳変性症の患者がふらつくことで異常に気付くことが多いです。また、ふらつくことからバランスをとるために左右に両足を広く開いて歩くようになります。歩き方が脊髄小脳変性症に罹患しているかどうかの指標にもなりますので看護師は注意してみておく必要があります。
脊髄小脳変性症の治療
脊髄小脳変性症は現在のところ根本的な治療法方法が見つかっておらず、完治が見込めない病気です。そのため、薬剤を使用して症状の進行を遅らせるというのが治療になります。
ポイント!
リハビリテーションを併用し、症状の進行や関節拘縮などを予防することも大切です。
脊髄小脳変性症の患者の看護計画
脊髄症の変性症は他の神経疾患同様に症状が進行することや、どの時期の患者に出会うかによって看護計画が変わります。
ここでは、病棟で目にする機会の多い脊髄小脳変性症という診断を受けてから寝たきりになる前、まだ自分でできることがあるという時期にあたる患者で看護計画を立てていきます。
#1 症状により日常生活が遂行できなくなる可能性
脊髄症の変性症の患者の看護計画を立てるにあたり重要となるのが、運動失調と言語障害です。これらを看護問題に当てはめていくと#1が症状により日常生活が遂行できなくなる可能性が挙がります。
ここには、行動や活動が制限されることだけでなく、食行動の制限、移動や清家宇動作の制限など様々なものがひっくるめられます。また、関節が拘縮することから#2運動障害による転倒転落の可能性も挙がります。
短期目標 | 残存機能を生かしてできることを自分で行うことができる |
OP (観察項目) | ・振戦の有無と程度 ・歩行障害の有無と程度 ・食事動作の可否と自立度 ・トイレ動作の可否と自立度 ・車いす使用の有無 ・本人の症状に対する受け止めと願望 |
TP (ケア項目) | ・食事時は患者が使いやすい形状の食器を用いる (食器類は動かないよう滑り止めのマットを引いて固定) ・食事は食べやすいよう一口大にカット (必要時にはとろみをつける) ・自身での衣服着脱のため、マジックテープやスナップボタンの衣服に変更 ・歩行時は、歩行器・杖・手つなぎ歩行など歩行状態によって方法を選択 ・排せつ時には、出来ない動作を介助する。 (介助時以外は患者の羞恥心を考慮し外で待つ) ・リハビリスタッフと連携し、病棟内でのリハビリを行う |
EP (教育・指導項目) | ・できないことは無理せず看護師に補助を頼むよう説明 ・歩行などの移動は必ず看護師を呼ぶよう説明 ・食器や杖など使いにくいものがあれば随時取り換えることを説明 |
#2 運動障害による転倒転落の可能性
ふらつきにより転倒が著明となる場合も多いので、転倒歴の確認、転倒対策が必要です。
短期目標 | 転倒転落をせずに入院生活を過ごすことができる |
OP (観察項目) | ・運動障害の有無と程度 ・振戦の有無と程度 ・歩行状況 ・自助具使用の有無 ・過去の転倒歴 ・本人の性格 (自分でなんでもやってしまう傾向か、人に依存する傾向か) ・睡眠剤、精神安定剤使用の有無 |
TP (ケア項目) | ・歩行時は、患者に合った適切な補助具を使用 ・杖・歩行器使用患者には転倒対策をする(重度の運動障害を除く) (下肢に重りをつけてバランスをとる) ・不随意運動があり杖を使用している場合は杖の先端に重りをつける ・振戦が強い場合はつま先に300~800gほどの重りをつける ・患者歩行時は転倒してもすぐに助けられる位置で見守る ・リハビリスタッフに適宜歩行状態を評価してもらい、その都度補助具を変更 ・関節可動域訓練を行う |
EP (教育・指導項目) | ・歩行時は転倒の危険を考慮して手すりを使用するよう説明 ・夜間、早朝は看護師が必ず介助することを説明 ・無理して歩行せずに看護師に介助を求めるよう説明 (下肢に力が入らないなどの場合) |
ポイント!
脊髄小脳変性症の症状は、ふらつき、構音障害以外の振戦などの症状は出現しないことがあります。必ずしもすべての症状が出るわけではないということを念頭に置いておくといいでしょう。
#3 他者とコミュニケーションが取れず精神的苦痛が生じる可能性
話し方が遅くなる・聞き取りづらくなる・いきなり声が大きくなるなどの症状が現れます。そのため、コミュニケーションに違和感があります。
ですが、脊髄小脳変性症の患者は頭脳や知能は正常であるためコミュニケーションをしていく中で患者を傷つけてしまう可能性もあり、症状出現時から注意が必要です。
短期目標 | 残存機能を生かしてコミュニケーションをとり、 他者へ自分の思いを伝えることができる |
OP (観察項目) | ・言語障害の有無と程度 ・話し方 ・声量 ・言語以外でのコミュニケーション能力の有無 (表情、手振り身振りなど) ・患者の人間関係(家族、友人など) ・疾患に対する患者の思い ・患者の性格 ・うつ症状の有無 |
TP (ケア項目) | ・患者が話している際、急かさず最後まで話を聞く ・比較的滑らかに喋れる時を見計らい積極的にコミュニケーションをとる (薬が効いている時など) ・静かな場所など患者が話しやすい場所を選択 ・手指振戦が見られない、あるいは軽度であれば筆談も活用 ・手指振戦が強く見られる場合は文字盤を使用 ・言語リハビリを病棟内でも実施 |
EP (教育・指導項目) | ・話をするときはゆっくりと喋るよう説明 ・今すぐに話を聞けない時には改めて話を聞きに行く旨を説明 ・家族にも積極的に患者とコミュニケーションをとるよう説明 |
脊髄小脳変性症の患者の看護のポイント
脊髄小脳変性症で言語障害を持つ患者は、幼児化していることが多い傾向にあります。しかし、患者の生きてきた背景や環境を考慮し、患者の人格を尊重した態度でコミュニケーションをとることが大切となります。
具体的なコミュニケーションのとり方を以下にご説明します。
患者の年代に合った関わり方をすること
コミュニケーションというとどうしても言語のみとなりがちですが、その年代に合った関わり方も大切となります。特に、脊髄小脳変性症は遺伝する場合もあるため、若い年齢や多感な時期に発症してしまうこともあります。
例えば、若い看護師で自分と年齢が近い場合、一緒にファッション誌を読む・髪をかわいく結ってあげる・身なりを整えて一緒に散歩をしながら他愛のない話をする、というだけでも患者の精神的なストレスは十分に解消される有意義なコミュニケ―ションとなります。
むやみに患者の動作を制限しないこと
脊髄小脳変性症の患者は、自分の疾患が進行していくこと、いつか寝たきりになり何もできなくなるということを発症時に聞かされています。
そのため、出来るうちになんでも1人でやっておきたいと思い、車いす移動という指示が出ていても歩いてしまう、どれだけこぼしても普段使っている食器で食事を摂ろうとする患者が多くいます。
そういった患者に対し、頭ごなしに車いすに乗るように指示する・無理やり食器を変えるなどすると患者の自尊心を傷つけてしまいます。
1つの動作を制限したり、食器類を交換したりする際には、必ず患者と相談し、患者の意見を聞いてから行うようにしましょう。
患者が好きな食事の提供・外出を提案すること
脊髄小脳変性症の患者は、今後何もできなくなってしまうという自分を悲観的にとらえ、鬱傾向となってしまうことがかなり多いです。また、病棟内での制限も増えてくるため、ますますふさぎ込んでしまいます。
脊髄小脳変性症の患者の多くは基礎疾患があまりない場合が多いため、食事内容や外出などの制限が無い場合が多いです。そのため、家族と協力して患者の好物を用意する、息抜きに外出してもらう提案をするなど精神的なフォローも重要となります。
外出で鬱症状が改善されることも
可能であれば看護師が1名付き添って外出しましょう。実際、野球好きな脊髄小脳変性症患者と隣の県へ野球を観に行ったり、若い脊髄小脳変性症の患者には流行りの髪型・メイクを施し、近くのショッピングセンターに買い物に行ったりしたことがあります。
患者の家族はこんな状態で外に連れ出すのは不安という人が多いですが、患者が感じるものは大きいようで、その日から2人ともうつ症状が軽減し、積極的に治療に取り組むようになりました。
脊髄小脳変性症患者が治療へ前向きになるかどうかのカギは、看護師の関わり方が大きく関係するのかもしれません。
まとめ
脊髄小脳変性症は進行性の神経疾患であり年齢や性格問わず発病することから、なんでこんないい人がこんな大変な病気になってしまうのだろうと思って辛くなる看護師も少なくないかと思います。実際、自分もそんな経験を多くしてきました。
脊髄症の変性症の看護は、その人の人となりを理解して個別性を尊重して関わることで素敵な看護を患者に提供することができます。
看護師の関わりが患者のQOLを左右する疾患ですので、ぜひ患者にたくさん関わり、オリジナルの看護を提供してほしいと思います。
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