神経内科でよくみられる疾患である筋萎縮性側索硬化症は、他科で働いていても既往歴として筋萎縮性側索硬化症を抱えている患者を見る機会があるかと思います。
ここでは筋萎縮性側索硬化症の看護についてご紹介します。神経内科の方だけでなく、他の診療科で働いている方にも是非参考にしてもらえればと思います。
「筋萎縮性側索硬化症」とは
筋萎縮性側索硬化症はALSとも呼ばれる疾患で、上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの進行性変性や消失により、症状を来す神経の系統的変性疾患です。
発症は中年以降で、70歳代が発症のピークとなります。発症からの進行が比較的急速であるため発症後平均3~5年で死に至ります。
発症率は人口10万人に1人の割合で、男性の方が女性より2:1の割合で多くなります。原因は不明とされています。
「筋萎縮性側索硬化症」の患者の症状
症状は手内筋や前腕の筋委縮から始まることが多いです。しかし、構音・嚥下障害が初発症状である場合もあります。症状は、変性された運動ニューロンによって症状は異なります。
また、認知機能の低下は気づかれにくいことが多いのですが、心理検査では前頭葉機能の障害が見られることもあることから、近年では前頭側頭葉型認知症との関連が明らかになってきています。
上位運動ニューロン障害の症状
上位運動ニューロン障害による症状は、筋力低下・痙性歩行・足クローヌス・深部反射更新・病的反射陽性・強制泣きや強制笑いなどの偽球麻痺兆候が見られます。
下位運動ニューロン障害の症状
下位運動ニューロン障害による症状は、筋委縮と筋力の低下・舌の萎縮・構音障害・嚥下障害・呼吸筋麻痺による低換気が症状として見られます。
「筋萎縮性側索硬化症」の治療
筋萎縮性側索硬化症は進行性の病変であるため、症状の進行を遅らせ、生命予後を伸ばすというのが治療方法となります。
現在、治療は研究中であり、筋萎縮性側索硬化症の治療薬はリルゾール(リルテック)とよばれるグルタミン酸拮抗薬が唯一のものとなります。それ以外は、症状によって起こっている合併症に対しての治療をしていくこととなります。
例えば、不安や抑うつが強い場合は気分安定剤や抗うつ薬の使用、関節拘縮が進まないようにリハビリテーションの取り入れ、食事摂取困難となった場合は経鼻経管栄養や経静脈栄養の他に胃ろうの増設などを行います。
また、呼吸障害に対しては、鼻マスクによる非侵襲的な呼吸補助、気管切開による侵襲的な人工呼吸器管理を治療として取り入れていくことになります。
ポイント!
筋萎縮性側索硬化症は進行性病変で、終末期へ移行していきます。そのため、終末期においては緩和ケア的なアプローチを行うほか、患者や家族の意向を尊重した治療を選択していくことが必要となります。
「筋萎縮性側索硬化症」の患者の看護計画
筋委縮性側索硬化症の患者の看護は、状態に合わせた看護を行うことが必要となります。患者に対して注意しておきたい症状は以下の通りです。
- 嚥下障害
- 呼吸障害
- 筋力の低下
構音障害によるコミュニケーション障害は日常生活に支障をきたし、嚥下障害を起こしていれば食事摂取不良による食事量の低下、誤嚥性肺炎などの合併症を引き起こす可能性があります。
また、肋間筋の筋力低下が起これば呼吸障害を起こしてしまい、CO2ナルコーシスを引き起こしてしまいます。また、筋力低下による転倒も起こす可能性があります。
筋萎縮性側索硬化症では、この病名による症状というよりも、病気によって起こった症状が引き起こす合併症に対して注意をすることが必要となります。特に生命へも直結する嚥下障害と呼吸障害の症状に対しては注意して見ておく必要があります。
ここでは、他科でも入院する可能性がある緊縮性側索硬化症がやや進行し、人工呼吸器や経管栄養などの栄養法に移行する前の患者の状態で看護計画を立てていきます。
#1 呼吸障害により死に至る可能性がある
まず、看護問題として、最も生命へのリスクがある呼吸障害により死に至る可能性があります。この問題に対しての看護計画は以下の通りです。
看護目標 | 異常を早期に発見し適切なケアを受けることができる |
OP (観察項目) | ・呼吸状態 (呼吸回数、呼吸の深さ、呼吸音、入眠中のアプニアの有無) ・痰の有無と性状 (痰の量、色、粘稠度) ・呼吸困難感の有無 ・むせこみの有無 ・咳嗽の有無 ・末梢冷感、チアノーゼの有無 ・動脈血酸素飽和度 |
TP (ケア項目) | ・リハビリスタッフと提携し、呼吸訓練を行う ・吸引機をセットし、痰の貯留があれば吸引を行う ・痰が硬く自己喀痰困難であればネブライザーなどを使用し痰を柔らかくする (自己喀出できるのであれば、しやすいようにする) ・むせこみがあれば食事の形態を変える |
EP (教育・指導項目) | ・痰貯留があり自己喀痰不可能な場合、看護師を呼ぶよう説明 (看護師が吸引を行うため) ・可能であれば、自己でも呼吸訓練を行うよう説明 ・呼吸困難感があれば看護師に報告するよう説明 |
#2 症状の進行により食事摂取ができなくなる可能性
嚥下障害により、症状が進行すると徐々に食事が摂取できなくなることから症状の進行により食事摂取ができなくなる可能性があがります。この問題に対しての看護計画は以下の通りです。
看護目標 | 症状に合わせて無理なく経口摂取を続けることができる |
OP (観察項目) | ・バイタルサイン(体温、呼吸音、呼吸数、脈) ・痰の量の有無と性状(色、粘稠度) ・嚥下困難感の有無 ・食事形態 ・食事摂取量 ・舌の動き、舌の萎縮の有無 ・嗄声の有無 ・咳嗽、むせこみの有無 ・咀嚼の可否 ・発声の有無と程度 ・本人の食に対する思い |
TP (ケア項目) | ・嚥下の状態に応じて、食形態をきざみ食やとろみ食にするなどの考慮をする ・食事摂取時に使用する食器類を患者の使いやすい形態・形状に考慮 ・自力摂取困難であれば介助をする ( 自力摂取可能であれば見守り・ペースが早ければ適宜声かけを行う) ・食後は口腔ケアを行う (自分でできなければ介助をする) ・ゼリーやプリンなどの形状の補助食品を使用して栄養状態を補う (3食で栄養が補えなさそうである患者に対して) ・痰の貯留、食物残渣の貯留があれば吸引などを行い、除去 |
EP (教育・指導項目) | ・食事のペースをゆっくりとし、よく噛み、ゆっくりと飲み込むように説明 ・食後は口腔ケアを行うよう説明 |
TPの「嚥下の状態に応じて、食形態をきざみ食やとろみ食にするなどの考慮をする」理由は、発症初期では液状のものよりも固形のものや半固形のものが嚥下をしやすく、乾いたものや粘稠度の高いものでは嚥下がしにくいといった理由です。極力さけなければなりません。
#3 症状の進行により転倒を起こす可能性がある
筋萎縮性側索硬化症の症状による合併症となりますが、症状の進行により転倒を起こす可能性があります。
特に、まだ自力で動けるうちは、動けるうちに何としてもできることはやりたいという思いが強いため、看護師の付き添い指示などがあっても自力で動いてしまい、転倒してしまうリスクが高くなります。
経験上、この傾向はどちらかというと若くして発症した患者や女性患者に多く、トイレに行きたくなった時に多い傾向にあります。
看護目標 | 転倒せずに入院生活を過ごすことができる |
OP (観察項目) | ・関節可動域 ・関節拘縮の有無、部位と程度 ・MMT ・過去の転倒歴 ・本人の性格と思い (何でも自分でやりたいか、どこまで動きたいか) ・認知機能の程度 ・睡眠導入剤、精神安定剤の服用の有無 |
TP (ケア項目) | ・歩行可能患者にはできる限り自力歩行をしてもらう (看護師の付き添いが必要) ・車いすの指示が出ている場合は声かけを行い、車いす乗車を促す ・歩行が可能な場合でも夜間は車いすを使用する ・リハビリスタッフと協力し、病棟内リハビリを実施する (可能であれば自己にて関節可動域訓練を行ってもらう ) |
EP (教育・指導項目) | ・無理して自己にて動こうとせずに看護師を呼ぶよう説明 (車いす指示がある場合は必ず看護師を呼ぶように説明) ・病棟内で個人でもできるリハビリの方法を説明 |
#4 病気の進行によりコミュニケーションが障害される可能性
病気の進行によりコミュニケーションが障害される可能性があります。
看護目標 | 残存機能を十分に使い、自分の思いを伝えることができる |
OP (観察項目) | ・偽球麻痺の有無と程度 (強制笑い、強制泣きの有無) ・構音障害の有無と程度 (発語の程度、嗄声の有無) ・咳嗽の有無 ・手指関節の可動域 ・本人のコミュニケーションに対する思い ・本人の性格 ・家族構成と家族関係 ・発語時の呼吸困難の有無 |
TP (ケア項目) | ・文字盤やパソコン、専用の器具を用いてコミュニケーションをとる (発語が難しくなっているが関節の動きが比較的良好である場合) ・本人が話し始めたらゆっくりでいいことを促し、最後まで話を聞く姿勢を取る ・病棟内での言語リハビリを実施する ・首振りや目の動きなど非言語的な合図を決めておく ・ナースコールを押しやすい位置に必ず設置する |
EP (教育・指導項目) | ・偽球麻痺について家族に説明 ・話すときは急いで話さずゆっくりでいいことを説明する ・文字盤や専用器具の使い方を説明する。 |
EPの「偽球麻痺について家族に説明」については、強制泣きや強制笑いが感情と必ずしも一致していないことを説明し、理解を得る。また、家族にもゆっくりと話を聞くよう説明してください。
「筋萎縮性側索硬化症」の患者の効果的な看護
筋萎縮性側索硬化症の患者は症状が進行するにつれて身体はどんどん動きにくくなり言葉も発せなくなりますが、それでも認知機能は正常である場合が多いです。そのため、自分の将来を悲観してうつ状態に陥る患者も多いです。
看護師は、患者の精神的ストレスを少しでも緩和してあげるために精神的な援助をしなければなりません。実際に行った看護で効果的であった例をご紹介します。
患者の食べたいものを提供する
嚥下障害でとろみ食を食べるのがやっとの患者でも、患者の思いに沿って食事の形状を変えることや、元々の形状でおいしくいただける食事を提供してみることで積極的に食事を摂るようになることがあります。
食事量が低下した患者でも、たまには嗜好品を食べてもらう工夫をすることで現状が良くなることがあります。
補足説明!
食に対しての意識やこだわりが強い患者の場合は、こちらがよかれと思って食事の形態をきざみやとろみにしても、それによって味が変化することや食事の見た目が悪くなってしまうので、食べなくなってしまう場合があります。
患者が楽しめる部屋の環境を作る
身体が動きにくくなると常に臥床状態となり、天井を見るのみの生活となってしまいます。そのため、患者が少しでも楽しめる環境を作ってあげることが必要です。
例えば、旅行が好きだった筋萎縮性側索硬化症の患者は、自分が過去に訪れた旅行先の写真や雑誌に載っている絶景の写真をコピーして1週間ごとに天井に貼るなどしてみましょう。
そうすることで、首が動かず上しか見ることができなくても、飽きることなく景観を楽しんでくれます。
ポイント!
臥床時はテレビやラジオを使用するなど環境を整えることや、どんなに状態が悪くなっても1人の尊厳ある人間として接することが1番大切となります。
まとめ
以下、参考文献です。
- 学研/脳神経疾患ビジュアルブック290~294頁
筋萎縮性側索硬化症は「no cause, no cure, no hope」 と言われる展望のない疾患として、患者には告知をしない方向でひと昔前までは医療が展開されてきました。
しかし、現在では予後が不良であることや様々な医療処置が必要となることから、患者に告知をして相手の反応を見ながら医療を行っていくという方向性となっています。
そのため、看護をしていくうえでも1番は患者の立場に立ち、患者の思いに沿った看護をすることが求められます。
筋萎縮性側索硬化症の患者の看護は、家族も巻き込みチームで行っていくということが非常に重要となります。チーム看護を意識して、患者の個別性や思いを大切にした看護を展開してほしいものです。
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