訪問看護師は、在宅療養をする患者・その患者を支える家族の療養生活を見守る役割があります。
初めての在宅看護では、物品が不足していたり、やり方が分からなかったりする家族も多く、病院看護と同じ目的でありながら、うまく代用したり簡易化したりすることも多いです。
在宅看護では、病院と違って、いかに窮屈でなく楽に自宅でゆっくりと過ごすか、ということが大切になると私は考えています。
このページでは、そんな在宅看護において、私が日々訪問看護師として工夫している10のコトをご紹介します。
利用者・家族と積極的に会話する

「工夫」という大きなものではありませんが、訪問看護において利用者やその家族と積極的に会話することを私は意識するようにしています。
理由としては、利用者やその家族から悩みや不安や愚痴を聞いたり世間話をしたりするのも訪問看護師の重要な役割だと考えており、訪問看護師との何気無い会話が積み重なって厚い信頼関係になることも多いためです。
また、会話の中から様々な問題解決の糸口を見つけることもあります。
しかし、面倒くさいと感じることなく、対応することをお勧めします。
何より訪問看護師が来てくれることが患者・家族の心の安定になる、とよく言われるのは、在宅看護がそれぞれ苦労や不安の中ぎりぎりの状態という人が多いということかもしれません。
内服はカレンダーに直接貼る

一人暮らしの利用者や、内服を忘れてしまう方に自分できちんと内服してもらうためには、工夫が必要です。
内服ケースなども市販されていますが、簡単でいつ飲み忘れたかという日にちも後から判別しやすいのは、多くの家庭にある壁掛けカレンダーに直接貼り付ける方法です。
その日にちになったら、日付に貼ってある薬を剥がして飲めばいいので、本人も分かりやすいです。
ただ、一日3回など複数内服薬がある人には難しいので、日めくりカレンダーなどを作製して一枚に朝・昼・夕・眠前と分けて貼り、毎日めくってもらう方法を取ります。
また、病院や施設では、処方された薬は処方通りに服用することが原則ですが、在宅看護ではいかに負担なく必要分を服用できるかが重要です。
どうしても飲み忘れや嚥下が困難などの問題があれば、主治医と相談して内服薬を整理したり、夕と眠前の服用をまとめて回数を減らしたりするなど工夫をします。
各科で一包化されていても、薬包が何袋もあるとどれかを飲み忘れてしまうので、訪問看護師が全てをまとめて一包化して整頓した上でセッティングすることも私は行っています。
身体抑制はしないで安全を守る

在宅看護では、自由にゆったりと自分らしく生活できることが醍醐味でもあるため、余程のことがなければ身体抑制は行わないように私は工夫しています。
時には、自己抜去も起こりますが、できるだけ自由を維持しながら安全を守るように考えながら私は在宅看護を行っています。
汚物は新聞紙にくるんでからビニール袋へ入れる

訪問看護において利用者の排泄物は毎日大きなゴミとなります。
大規模マンションでは24時間対応のゴミステーションがあるのですぐに捨てられますが、ほとんどの方はゴミの日になるまでその排泄物を溜めて置いておかなければなりません。
私はなるべく臭いを発しないように工夫するために、汚物を新聞紙に圧縮しながらくるみ、それからビニール袋に入れて閉じます。
新聞紙にくるんでおけば、直接ビニール袋にいれるよりも臭いを閉じ込めることができます。
下剤を調整しながら浣腸と摘便を組み合わせる

訪問看護師の提供技術で1番多いと言っても過言ではないのが浣腸・摘便です。
訪問看護では、数種類ある下剤から本人の便の傾向に合わせて調整して、自己排便できる便と腸の状態に整えた上で、適宜浣腸や摘便を行うという合わせ技で排便コントロールをします。
浣腸や摘便をしても、便が降りて来ていなければ不快なだけなので、この組み合わせは必須だと私は考えています。
また、自分でどのように調整すれば良いのか分からないため、全て看護師にお任せするという方も多いのですが、病院受診の時に便が出たらオムツ処置に困るから受診後に出して欲しいなどの要望も多く聞かれ、外出に合わせたコントロールも訪問看護師が行います。
そのくらい、便秘の問題は本人にとってかなり深刻で、毎日のように便のことを考えているという方も多いのです。
安易に「尿道留置カテーテル」を選択しない

病院や施設では、トイレ排泄が困難だと尿道留置カテーテルという選択を安易にすることもあります。
介護する側も失禁のたびにオムツ交換や保清をすることなく、本人も濡れた不快を感じることがないので楽そうに見えますが、長期留置するとデメリットもあります。
感染などの合併症リスクだけでなく尿意を感じにくくなったり、本当の尿閉を招いたりすることもあり、排泄という離床機会を失い寝たきり状態が進行することもあるため、在宅看護ではできるだけ選択をしないように私は工夫をしています。
頻繁に排泄介助できる環境ではないのに、尿量が多く漏れてしまうという女性の場合は、尿取りパッドを平らに敷くのに加えて尿取りパッドをジャバラに折って陰部に当てがいます。
そうすると、ジャバラに折った尿取りパッドがまず全体的に吸収してくれるので、臀部側まで汚染されず、皮膚トラブルも起きづらくなります。
また、最近では男性用尿取りパッドとして製品が販売されていますが、わざわざ購入しなくても大丈夫です。
尿取りパッドの長い一辺の中央のヒダに5cmほどの穴を開けて男性陰部を差し込み包めば陰部の先から出る尿をしっかりキャッチしてくれます。
もし家族に排泄介助の負担があるなら、それをまかなうための人(ヘルパーや看護師)をうまく時間ごとに割り当てて導入すれば良いことです。
陰部洗浄ボトルはペットボトルで作製

看護師なら、陰部の保清で洗浄をすることは常識ですが、介護や看護を未経験な方は排泄後にティッシュペーパーやお尻拭きで拭き取ればいいと思っている方が多いです。
お尻拭きで何度もこすって皮膚トラブルが起きてしまい、確認すると陰部洗浄用のボトルはおろか、「洗う??ベッドでどうやって?」と洗浄すればいいことさえ知らない、ということがよくあります。
病院で使っているような立派な陰部洗浄用のボトルを購入しなくても、家庭で飲み終わったペッドボトルの蓋にきり等で数カ所穴を開けて簡単に作製できます。
意外とシャワー圧がしっかり出て、つかみやすく、汚れが気になったら漂白除菌するより破棄してまた作り直すことができるのも魅力的です。
また、ペットボトルがない家庭なら、紙コップでも代用できます。
点滴スタンド代わりにS字フックやハンガーを使用

在宅で点滴治療をすることになった場合、点滴スタンドをレンタルもできますが、起き上がって自宅内移動をするということがなければ点滴スタンドの代わりにS字フックをカーテンレールや鴨居に引っ掛けて点滴をぶら下げます。
S字フックがないときは、ハンガーの頭部分に点滴の穴を通してハンガーごと引っ掛ける方法で十分です。
カーテンレールや鴨居などがベッド近くになく、ハンガーラックなどに掛けると高さが得られず点滴が落ちにくいこともありますが、家庭にある物品で代用できます。
家族が疲れたときはレスパイトをすすめる

どんなに若く健康な人が家族にいて介護ができるといっても、24時間365日の介護は大変な苦労があります。
また家族は、「家族がみて当たり前」「見捨てられない」などの思いから、一生懸命に負担を自ら背負ってしまいがちです。
肉体的疲労だけでなく精神的疲労も大きいので、家族の健康状態も観察し、疲れが見えた時にはレスパイトをすすめるのも訪問看護師の大切な役割です。
最近では家族も家族の人生を充実させながらプロが介護を請け負うということで介護保険を利用できるように価値観が変わってきています。
プロに任せてもいいのだ、自分自身にも休息が必要だ、と家族が罪悪感がないように声かけをすることが大切です。
介護保険と医療保険のどちらで利用するべきか検討する

現在の介護保険制度は、日常生活動作の自立度で介護認定をはかるようになっていて、実際の精神状態や認知症状から生じる介護度とは異なる認定になることもあります。
また、病状悪化や改善があっても介護認定が迅速に変更されないので、使いたい介護保険点数が使えないことも多いのです。
看護師にもっと訪問して欲しい、と患者・家族が希望しても、介護保険点数不足で訪問回数が増やせないことがあります。
その場合、基礎疾患が難病など特定疾患ならば医療保険によって主治医の指示で訪問看護をできます。
特別指示では2週間毎日訪問できる上、自己負担上限額があるなど患者・家族にとって経済的にも助かります。
介護保険で訪問する方がいいのか、医療保険で訪問するか、その患者や家族の病状や介護体制、看護師に要望されている看護技術などを考慮しながら提案する必要があります。
最後に
在宅看護は家庭ごとに方法が違うので、試行錯誤の繰り返しですが、大切なのは、患者も家族も一生懸命頑張りすぎないようにすることです。
小さな工夫で力を抜いて楽に過ごせることもあるので、そうした工夫を伝えられるような信頼関係を築いていってください。


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