私が体験した代表的な看護師のインシデント事例と対策

多くの看護師が一つや二つは苦いインシデントの思い出を持っているのではないでしょうか。

看護師は診療補助や療養上の世話などの最終的な行為の実施者となることが多く、他職種のエラーに気付くことはできても他職種が看護師のエラーに気付いてくい止めることはほとんどできません。

そんな看護師のインシデント事例の中で断トツに多いのが、「点滴」「転倒・転落」「誤薬」「ルート」にまつわるインシデントだと言われています。

そこでこのページでは、私の経験を元にしながら、4つのインシデント事例と具体的な対策を体験談として説明していきます。主にリーダー層の看護師に向けた内容となっておりますが、インシデントが多い若手看護師の方にも参考になると思います。

私が病院勤務していた際に体験したインシデントの事例とその対策となります。記事の内容に関しては、ご自身の責任のもと適法性・有用性を考慮してご利用をお願いいたします。
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点滴にまつわるインシデント事例と対策

点滴にまつわるインシデント事例と対策

点滴にまつわるインシデントでは、

  • 指示の物でない点滴を誤って投与してしまった
  • 点滴を指示された流量で投与していなかった
  • 指示の時間内に点滴投与が終了しなかった
  • 指定時間のある点滴を投与し忘れた

などといったような事例がよく見られます。

これは、新人看護師や異動後間もないスタッフほど知識不足や経験不足により起こしてしまいやすい内容であるため、リーダーや先輩看護師が業務の途中段階で正しく行えているかフォローする事がインシデントを防ぐ事に役立ちます。

以下で、こうした対策方法について詳しくご紹介していきます。

対策1:リーダー達はベッドサイドに行く時には必ず投与量を確認する

若手の看護師が点滴を機械で滴下させる手技などを独り立ち」して先輩がつきっきりで指導していた時期を過ぎる頃は特に注意が必要です。

リーダーや先輩看護師はそういった「独り立ちしたばかりの看護師にはまだ目を光らせ続け、各患者のベッドサイドに行く時に必ず指示通りに点滴が投与されているか目を配るようにしてください。

非常に単純なことですが、これだけでもかなりインシデントが減るはずです。

対策2:他者と協力して投与忘れを防ぐ工夫をする

抗がん剤や重症患者で複数の点滴が投与されている場合、指定の時間に遅れたり投与をし忘れたりといったインシデントが起こりやすいです。

こういったインシデントは、個人でどうこうしようとせず、他者と協力し合いながら防ぐ工夫をすると良いでしょう。

具体的には、

  • 受け持ちとリーダーで業務開始の際に投与予定の点滴を一緒に確認する
  • 薬剤師と協力してどの点滴がどの順番に投与されるか表を作成する
  • 忘れられにくい時間の点滴投与にできないか医師に打診する

などといった対策をとるようにしましょう。

対策3:口頭指示に関するルールを徹底する

原則禁止ではありますが、夜間や緊急時にやむなく医師から口頭で点滴に関する指示を受ける場合があります。

この時に、医師の口頭指示と異なる薬剤や規格の違う薬剤を投与してしまったという場合があります。

このため、口頭指示を受けた場合は、薬剤名や規格、量を必ず復唱し医師に再確認する事が重要です。

補足説明!

その他に、緊急時を除く、予め投与が決まっている薬剤は、決められた時間内に正しく指示を出してもらうように医師に徹底してもらう事も必要です。

転倒・転落にまつわるインシデント事例と対策

転倒・転落にまつわるインシデント事例と対策

薬剤のインシデントの次に多いインシデント事例は「転倒・転落」です。

たとえば、

  • 術後1日目の患者が自分でトイレに行こうとして転んだ
  • ベッド柵がされておらず患者がベッドから転落した

などのようなインシデント事例が多いです。

このような転倒・転落にまつわるインシデントを防ぐためには、普段からお互いに危険予測をし合うチームの雰囲気を作ることが効果的でしょう。

以下で、詳しく解説していきます。

対策1:転倒・転落のリスクをタイムリーに評価する

転倒・転落のインシデントは、患者の状況の変化に対して看護師のアセスメントが追いついていない場合に起こりやすくなるため、看護師は転倒・転落を防ぐためにリスクをタイムリーに評価する必要があります。

転倒・転落アセスメントスコアシートを使用する

転倒・転落のインシデントを防ぐため患者の状態をタイムリーに評価する方法として、「転倒・転落アセスメントスコアシート」を使用します。

これは患者の状態を点数化し、それによって転倒危険度を評価するものです。各組織の状況に合わせて改訂しながら使用しているところも多いでしょう。

ポイント!

患者の発熱時、初めての睡眠薬導入時、転入3日以内、術後、などと変化が生じやすいタイミングで、転倒・転落アセスメントコアシートを使用し必ず評価をし直すようにします。

対策2:転倒・転落を防止する環境を整備する

転倒・転落に関するインシデントの対策として、正しく患者の評価をした後は、転倒・転落を防止するための環境を整備します。例えば、

  • 患者のベッド周囲に雑然と物を置かない
  • 適切な場所に手すりが設置されているか確認する

などといったことを整備する他に、病院の場合はナースコールを押さない患者が歩き出したらコールが鳴るセンサー付きマットなど医療器材の使用を検討します。

対策例3:患者や家族に転倒・転落対策について協力してもらう

転倒・転落にまつわるインシデントへの対策として、患者や家族と現在の状態と転倒リスクについて理解し協力してもらうことも重要です。たとえば、

  • (在宅の場合)ベッドから降りる時は必ず家族と一緒に行う
  • (病院内の場合)スリッパではなくシューズを使用してもらう

などといった方法で、患者や家族に転倒予防を協力してもらいます。

補足説明!

これらは看護師が個々にお願いするだけでなく、病院内に掲示をしたり転倒予防に関するパンフレットを作成したりして、組織的な取り組みとして行った方がより効果的でしょう。

誤薬にまつわるインシデント事例と対策

誤薬にまつわるインシデント事例と対策

誤薬にまつわる代表的なインシデント事例は以下の通りです。

  • 看護師が違う患者の薬を飲ませてしまった
  • 自己管理中の患者が薬を飲み間違えてしまった
  • 医師が誤った与薬のオーダーを出し看護師が気付かずに飲ませてしまった
  • 薬剤部から誤った薬が送られてきて看護師が気付かずに飲ませてしまった

与薬という行為は、このように複数の職種が関与し、多くのプロセスがふまれるため「看護師各自が気をつける」だけで誤薬を防ぐことはできません。

それぞれの職種が決められたルールに基づいて正しく実施することが最も重要です。

そして、このプロセスにおいてやりにくさなど気付いた点はお互いに声をあげることや、人が起こすエラーだけに絞らずに環境面からエラーを防止する方法を考える事が大切です。

対策1:与薬方法のマニュアル化とルールを徹底する

薬剤を患者に投与する・内服してもらうまでには、指示書を確認し、薬袋の中の薬剤を確認し、正しい患者かどうかを確認し、という様々な確認のプロセスがあります。

これらの確認のプロセスを正しく行うことでエラーに気付くことにつながるため、組織の中でその一連の行動をマニュアル化することが、誤薬にまつわるインシデントの対策への第一歩です。

管理者クラスがプロセスを飛ばして実施してないかチェックする

なかには、「忙しかったので確認のプロセスを飛ばして実施した」という看護師がいる場合があります。

この場合は、主任や師長等の管理者クラスが監督者となり、定期的に正しく行われているかをチェックしたり実施テストを行ったりして、決められた確認のルールを徹底させることが大切です。

対策2:薬袋や指示書を分かりやすくする

薬袋や指示書を分かりやすくするということも対策の1つです。

  • もっと薬剤名を大きく書く
  • 指示を変更した日がわかりやすい書式の指示書にする

などのような改善が可能な場合もあります。

同じ組織でずっと勤務していると気付きにくいものの、転職してきた看護師にとっては指示書や薬袋が見づらいものかもしれないため、改善の必要性について注意を払うことが大切です。

在宅や施設では薬袋を変更することはできませんが、よりわかりやすい薬のセットの方法などを検討しても良いかもしれません。

ルートにまつわるインシデント事例と対策(体験談)

ルートにまつわるインシデント事例と対策(体験談)

周手術期の病棟では

  • 術後せん妄になった患者が点滴の針を自分で抜いてしまった
  • 術後の患者の移動介助時にドレーンがひっかかり抜けてしまった

といったルートにまつわるインシデント事例もとても多いです。

実際、私自身も2年目の頃に、ルートにまつわるインシデントを体験したことがありました。

当時私が勤務していた病院は、1年目の後半からリーダー業務を覚え、2年目になるとすぐに夜勤のリーダーとして重症者を担当する事になっていました。

2年目になってすぐの深夜勤務の事です。消化器の疾患で長らく保存的治療を行っていた高齢のAさんが、手術を受けて2日目の夜でした。

身体に直接触れるようなルート類の確認を怠った

Aさんは少し混乱したような言動がありましたが、薬を投与してようやく眠ってくれたという申し送りがありました。

巡視で起きてしまっては困ると思った私は、最初の巡視で点滴類の確認のみを行い、Aさんの身体に直接触れるようなルート類の確認をしませんでした

1時間後には床に血液や点滴が広がっていた

その1時間後に訪室すると、点滴のルートや胃管の接続が外され、床に血液や点滴が広がっていました。いつの時点でルート類が外されていたかはわかりません。

幸い、Aさんのバイタルサインに影響はなかったですが、発見した時の自分自身の血の気が引く感覚は忘れられません。

「面倒」という思いが勝ってしまった

もちろん、患者の状況によっては睡眠を優先することもあるでしょう。

あの時の私の問題点は、Aさんが起きてしまうと面倒という思いから、誰にも相談せずに「特に直接確認する必要はないだろう」と慢心してしまったことにあります。

同じインシデントを繰り返さないために私が考えた対策

寝てもらいたいからといって必要な確認を怠る事は優しさではないと実感し、それ以来私は、

  • 勤務開始時に患者のルート類は直接目で確認しアセスメントしておく
  • 少しでも不安や疑問に思ったことは一緒に働くスタッフに報告や相談をする

という対策をたて、同じインシデントを繰り返さないように注意しました。

最後に伝えたいこと

最後に

看護師のインシデントの対策には、全ての職種が投与に関するルールを順守すること、患者の状況を複数のスタッフの目でタイムリーにアセスメントすることが重要です。

ただ、インシデントをしてしまうと、何日も気持ちが落ち込み、また同じ間違いを起こしてしまうのではないかと思うと働くのが怖くなることがあります。しかし、どんな中堅・ベテランの先輩も師長も、インシデントを起こしたことがない看護師はいないのです。

「同じインシデントを繰り返さないよう気持ちを立て直そう!」

気持ちが立て直せないまま業務を行うと、次のインシデントを引き起こしてしまいやすく、連日のようにインシデントを起こしてしまうこともあります。

同じインシデントは繰り返さないように、気持ちを立て直すことが大切です。

「自分の行動を客観的に振り返ろう!」

部署で他の人が書いたインシデントを読むと、「この人はこういうインシデントを起こしやすいのだなあ」とそれぞれの傾向に気付いたり、「この確認を怠るとこんなミスにつながるから気を付けよう」と意識させられたりします。

このように、インシデントを起こしてしまった後に大切なことは、自分の行動を客観的に振り返ってインシデントを起こしやすい自分の傾向(体調や精神状態、忙しさといった現場の状況など)に気付きましょう。

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