看護師長は看護部長の次に位置し、各部署の責任者の役割を担っています。良くも悪くもその部署の雰囲気を作り上げるのは看護師長次第というほど重要なポジションです。
私は10年ほど看護師として働き、その後大学院への進学へて看護師長を経験しました。
そこで今回は看護師長の仕事内容と平均年収などについて私の経験を元に解説していきます。
看護師長になるには?
看護師長になるコツがあるとしたら、それは、同じ病院で長く働き続けることです。
リーダーや係を引き受けるところから始まり、主任看護師になり、その後、看護師長になるというのが、よくある流れです。
経験10年以上、30代半ばから40代が多い
病院にもよりますが、看護師長にはおおむね30代半ばから40代で昇進する人が多いです。
私は30代後半の時でした。
看護師長になるためにはある程度の臨床経験と、管理職としての経験を積まなければならないので、どうしても10年以上の経験が必要となり、結果的に昇進が早い人でも30代半ばとなってしまいます。
昇進試験の合格やキャリアラダーをクリアする事が前提
一つの組織で地道な働きを認められ、リーダーや主任職を任命され、更にその中から看護師長が選ばれる事が多いようです。
設置母体が自治体や企業であったりすると、医療職以外の職種と同様に昇進試験が課せられている場合もあります。
最近多くの病院で導入されているキャリアラダーについては、定められたラダーをクリアしている事が看護師長になる最低条件となっている組織も多いです。
私は、定められたラダーをクリアしている状態でした。
そのため、認定看護師や専門看護師といった資格があり、その組織に呼ばれたという事でもなければ、転職していきなり看護師長を任命される事はほとんどありません。
看護師長の役割
看護師長が在籍している病院では、以下のような役職が一般的です。
- 看護部長(副院長)
- 看護師長
- 主任看護師
- リーダーナース、スタッフナース(役職のない看護師)
看護師長の役割について私の体験から説明していきます。
実施される看護やスタッフ教育の責任者
看護師長は、担当部署の雰囲気作りにおいて決定的な影響をもたらします。
大規模病院の各病棟を回ると、科の編成の影響もありますが、看護師長の違いによってここまで雰囲気が変わるのかと驚く事でしょう。
その部署で行われる看護には、「看護として何を大事にするか」という看護師長の看護観が影響しますし、日々の看護を提供するスタッフの教育の責任も看護師長にあります。
こういった、その部署で行われる看護の土台を作り、その部署で行われる看護を実際に提供する「人」を育成するという重要な役割が看護師長にはあります。
様々な調整役
看護観のベース作りや人材育成という基本の役割を土台として、日々の業務はまさしく管理業務であり、実際に患者さんと接する時間は主任職時代と比べて激減します。
そして非常に多くの人々と多くの調整を行い、部署を運営します。
その調整とは、医師との橋渡しもあれば、部署の患者やスタッフに関連した看護師長同士の調整、ベッドコントロールをめぐって事務部門との調整も発生します。
自分の感情を抑え気味にして相手に理解を示したり、時には強く主張したり、実に様々なコミュニケーション技術を駆使する事にもなります。
看護師長の実際の仕事内容
具体的な看護師長のメインの仕事内容は以下で説明しますが、実際は多岐に渡ります。
病院毎にある問題や課題があれば、その解決にあたって改善計画書などを提出することもあります。
病棟の看護最終責任者
最も重要な仕事内容は、実施される看護の最終責任者であるという事です。
クリティカルパスが適応されるような短期入院の患者のケアなど、日常的なケアは基本的に主任看護師に任せている看護師長も多いでしょう。
そうはいっても、患者のカルテをチェックしたりスタッフ達から話を聞いたりするなどして、適切なケアが提供されているかは責任者として把握します。
特に複雑な問題を抱えておりスタッフ達がケアに悩むような患者の看護については、主任看護師達の相談にのったり、必要と思えば自分が直接患者と話し合いをしたり、認定看護師や専門看護師、緩和ケアチームといった院内の資源を利用するよう調整したりするなどして、患者に適切で最良なケアが行われるようにします。
部署のスタッフの教育
新人看護師など、看護師の教育に関する基本的な考え方や必須の研修は組織として既に決められています。
ですが、自分の担当部署の科の編成やスタッフの経験年数、インシデントの傾向などから総合的に分析し、独自のスタッフ教育を行う事も看護師長の重要な仕事です。
看護師長が直接勉強会を開くというよりも、どういう方針と教育方法で、誰に依頼して教育の機会を設けるか、主任看護師と相談しながら年間の教育予定を立ててスタッフ教育のベースを作ります。
もちろん勉強会という方法だけでなく、何か起こった時に看護師長がスタッフと直接話をしたり看護ケアについて一緒に考えたりする事も、広い意味でのスタッフ教育と言えるでしょう。
ベッドコントロール
代表的な看護師長の管理業務の一つです。
特に急性期病院では病床利用率がそのまま病院経営に大きな影響をもたらします。そのため、平均在院日数を短くしつつ、そのベッドが常に埋まるようにする工夫が必要です。
特に大規模病院では入院を待っている患者も多いため、入院日が決まっている患者は予定通りに、入院待機中の患者は極力待たせる事なく入院してもらう事が大切です。
看護の最終責任者というお話をしましたが、適切な医療とケアが行われ、予定された入院期間できちんと退院できるように管理する事は、患者のためでもあり、病院経営にとっても重要な事なのです。
多くの急性期病院では、午前中に患者が退院した後、午後には次の入院患者がそのベッドを使うというダブルベッドがよく行われています。
勤務表作成
スタッフの立場からすると、この勤務表の出来次第で看護師長に対する評価が決まってしまうという位重要な業務です。
夜勤配置人数や、夜勤と夜勤の間隔、月の夜勤回数には決まりがあり、様々な制約の中でスタッフの希望も聞きつつ、ある日の夜勤が新人看護師ばかりで患者の安全が危惧されるというようなシフトは避けなければならず、非常に難しい仕事です。
インシデント対策
インシデントには、内服や点滴、転倒など、どの組織にも共通して高い割合を占めるものがあります。それに加え、自部署にはこんなインシデントが多い、この時期にはこういったインシデントが起こりやすいといった傾向が部署ごとにみられます。
インシデントは単に看護師スタッフ一人一人が気をつけるだけでは防げないものもあります。
そういったインシデントに関する自部署の傾向をつかみ、予防する、スタッフ教育をする、インシデントを起こしたスタッフと一緒に振り返りをして同じ失敗を繰り返さないようにするといった対策を講じるのも重要な業務です。
また、他職種も関与するようなインシデントは看護師だけが気をつけても効果を発揮しない場合があり、他職種や他部署にかけ合うような調整を行うのも看護師長ならではの業務と言えるでしょう。
看護師長は苦労が一番多い役職?
実際に病院で働いていると、「看護師長の苦労がわかる」「看護師長にはなりたくない」という人も多くみられます。
その原因は、やはり中間管理職というポジションで、苦労が多いからです。
管理職業務の比重の違いがある
看護師長と主任職の大きな違いは、管理職業務の比重の違いと言えるでしょう。
主任職は看護実践のモデルとしての役割があるため、患者に近い位置で実践を行いつつ、スタッフ教育といった管理業務を行います。
それに比べて看護師長は、一日の大半をデスクワークと会議に費やすといっても過言ではありません。
また、患者にとって快適な療養環境作りと、スタッフが働きやすい職場環境作りのためには、様々な部門との話し合いや交渉が不可欠です。
孤独な中で病棟を引っ張る必要がある
上司は看護部長になるので、なかなか自分が相談をしたり、アドバイスを受けたりすることはできません。
孤独な中で、自分の病棟を引っ張っていかなければいけないため、プレッシャーも大きいでしょう。また、部下たちはというと、師長を頼って相談してくることや、悩みを話してきます。
時には、シフトへの不満を漏らしてくる看護師もいるので、ひとりひとりに合った対応をしていくことはとても大変だといえます。
看護師長によって病棟全体の雰囲気が変わる
看護師長は、各病棟を任されるナースですので、看護師長の人柄、運営の仕方などによって、病棟全体の雰囲気が変わるといいます。
現場で働くナースたちとうまく連携を取れない看護師長だと、それが看護師たちの離職につながる場合や、病院の評判を落とすことにもなりかねないのです。
また、部署の責任者として、部下を守らなければならず、責任の重さから考えても、苦労が最も多い役職と言えます。
看護師長の給与、平均年収
ここでは、看護師長の給与と平均年収について説明していきます。
私は、看護師14年目で看護師長となり、平均年収は640万円程度でした。
看護師長の平均年収と給料について
日本看護協会が調査を行っている「看護職の給与の調査・データ」では以下のような年収になります。
看護師長の月収 (月の給料) | 370,949円 /月 |
中間管理職の賞与 | 1,245,754円 |
管理職の賞与 | 1,490,389円 |
看護師長の年収 (中間管理職) | 5,697,142円 |
看護師長の年収 (管理職) | 5,941,777円 |
(師長の年収=看護師の月収×12ヶ月+賞与額)
病院によって看護師長が中間管理職なのか、管理職なのかの差はあるため、平均年収が2つのパターン存在し、約20万円程度の違いになります。
平均年収として約560万円~590万円前後といえます。
最も給料が良いのは人口が多い都市の公立病院
看護師長の場合、地方や都心、公立や民間など、病院の規模によっても年収が変化します。
最も給与が良いのが、首都圏など、人口が多い都市の公立病院で、年収にすると700〜800万円ほどになるそうです。
地方の病院や民間の病院では、500〜600万円ほどが相場になります。
最後に
管理職の仕事は、毎日が選択と決断の積み重ねとも言えます。そしてそれらには大なり小なり自分にストレスがかかるものです。
「新人看護師が大きなインシデントを起こした」、「複雑な問題を持つ患者と家族から連日のようにクレームが入る」等、少し想像しただけで胃が痛くなるようなエピソードは満載です。
苦労が多い役職ではありますが、その努力の結果は多くの人に良い影響をもたらす事も可能です。
患者全体にもスタッフ全体にもより良い環境を提供したいという人は、是非目指してみて下さい。
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