終末期だけでなく、がん診断の早期からの緩和ケアの必要性が言われる昨今、緩和ケアチームを持つ病院も増えてきています。
緩和ケアチームの役割についての定義は複数ありますが、がん診療の全経過を通して出現する様々な「苦痛」を緩和しサポートするための、多職種メンバーによって構成されたチームです。
私はがん看護専門看護師として、緩和ケアチームに所属していました。
緩和ケアチームに看護師として所属した私の役割や体験談から、説明していきます。
緩和ケアチームの看護師になるには
緩和ケアチームの看護師になるには、それぞれの組織でどのような目的を持って設置されたチームなのかによって条件が異なります。
例えば、がん診療における拠点となる病院としての役割を果たすためなのか、診療加算などは関係なく院内の緩和ケアの困りごとに対応すべく発足したのかなどです。
それぞれの場合、どのような看護師が一般的に緩和ケアチームに参加することができるかを、私の経験から説明します。
がん医療、緩和ケアに特化した資格を持つのが望ましい
現在、厚生労働省が指定する「がん診療連携拠点病院」には緩和ケアチームの設置が義務付けられています。この場合の緩和ケアチームの看護師の要件は、「業務の80%以上をチームに充てる専従であり、専門的知識・技能を持つ」とされています。
そのため、多くの緩和ケアチームの専従看護師は、
- がん看護専門看護師
- 緩和ケア認定看護師
- がん性疼痛看護認定看護師
などが担っていることが多いです。
それ以外に、専従ではなくともチームメンバーとして、精神看護専門看護師や、がん化学療法認定看護師、乳がん看護認定看護師らが参加している場合もあります。
加算を取っていない場合は誰が担うかは病院の考え次第
病院の役割や規模によっては、院内にがん看護専門看護師、緩和ケア認定看護師などの資格取得者がいない場合もあります。
緩和ケアチームの立ち上げ初期の場合は、がん領域の専門看護師や認定看護師の教育課程を修了したがまだ資格を取得していない看護師や、緩和ケアに関する研修を受けた看護師長が一時的にメンバーとなっている場合も私の経験上あります。
緩和ケアチームに所属して感じた看護師の役割
緩和ケアチームにおける看護師の役割は、主に二つに分かれます。
- 患者や家族の持つ様々な苦痛を評価して意思決定支援を行うなどの直接ケア
- 緩和ケアが円滑に切れ目なく行われるためのチーム内外に対する調整役
となります。以下では私が経験した、主にチーム内外に対する調整役割についてご紹介します。
患者・家族へのアセスメントと、それが実践されるための調整
緩和ケアチームで働く看護師の役割として、患者と家族に対するアセスメントと共に、治療法が実現可能であるか病棟の看護師もアセスメントし、治療法を提案する緩和ケアチームの医師とすり合わせていく調整が挙げられます。
この過程における、主治医から依頼された困りごとに対し、緩和ケアチームとしての判断を行い、薬剤の処方や対応についての提案をすることを「コンサルテーション」といいます。
このコンサルテーションは緩和ケアチームの主な役割です。
提案された治療法を病棟看護師が行えるか判断する
コンサルテーションにおける難しさは、処方などの総合的な提案は緩和ケアチームの医師である一方、患者への薬剤の投与やケアの最終的な実施者は、主に病棟の看護師であることです。
例えば、緩和ケアチームの医師がいくら「この薬剤をこの時間に投与することが良い」と提案しても、その提案を受け入れられるかどうかは、病棟看護師の緩和ケアの習熟度や、場合によっては他の患者へのケア配分や夜勤配置の看護師人数なども影響します。
そこで緩和ケアチームの看護師は、看護師としての患者・家族に対するアセスメントと共に、
- その部署の緩和ケアの知識や技術に関する習熟度
- 個々の看護師の習熟度
- 場合によっては部署の管理者の力量
なども総合的にアセスメントし、どういった方法ならば実施可能かを見立て、緩和ケアチームの医師とすり合わせを行い、最終的に実施されるための調整を行います。
緩和ケアチームメンバー内への調整
緩和ケアチームの立ち上げ当初は特に重要になる働きです。
一般的に、緩和ケアチーム内には理学療法士や作業療法士、栄養士や薬剤師、臨床心理士など様々な職種が参加しています。
そこで、緩和ケアチームの看護師は、患者・家族に対するアセスメントから必要なケアを検討し、各職種の役割や経験、技量を総合的に判断し、最終的にケアが実施されるようにチームメンバーに働きかけていきます。
その時には、チームメンバーが患者情報を理解しやすいようにかみ砕いて説明をしたり、カンファレンスの場でメンバーに意見を求めたりし、各職種が役割を発揮できるようにしたりします。
調整しないと他職種の参加が形骸化してしまう恐れがある
一人の患者のケアを検討する時に、病態や治療に関する知識が不足しているために他の職種からは意見を出しにくいということがどうしても発生します。
そうなると、チームの責任者である医師が強いリーダーシップを発揮しすぎてしまい、他職種の参加が形骸化してしまう可能性があるのです。
そこで、看護師による調整を通して、チームメンバーが個々の能力を発揮して役割を果たし、チーム全体として機能するようにしていきます。
事務的な役割を含めた様々な調整
チーム内外への人に対する調整以外に、事務的な内容を含めた様々な調整があります。
まずはチームに対する依頼の窓口となることです。
組織の人々が依頼しやすいような依頼書の作成や、依頼書の受け取り方法などの取り決めを行います。
その他にも、部署で効果的なカンファレンスを開催するための、場所や時間、メンバーの調整といったことも行いました。
緩和ケアチームに所属して私が感じたこと
以下では、緩和ケアチームの看護師として働くうえで、私が感じたメリット・デメリットをご紹介します。
組織全体のケアの質の向上に携わることができた
緩和ケアチームの看護師は院内全体を巡回するため、各部署の強みや弱みなどがわかり、組織が抱える緩和ケア上の課題を捉えやすくなります。
このことは、自身の活動を広げるきっかけになりました。
チーム活動を通して、自分一人で実践を行うよりも多くの患者・家族のケアに貢献できることは喜びにつながり、更に部署の看護師への教育によって、組織全体のケアの質の向上につなげることができます。
高いコミュニケーションスキルが必要で負担
様々な調整役割が負担になることもありました。
特に緩和ケアチームを立ち上げて軌道に乗せる時期は、表立ったリーダーは医師ですが、実質的にチーム活動を円滑にする要の役割は看護師の私が担っていました。
リーダー医師との関係性を築きながら、看護師としての立場で意見を述べ、更にチームメンバーが力を発揮できるように働きかけるということは、高いコミュニケーションスキルを必要とします。
これらのことは、時には負担を感じさせることもありました。
最後に
緩和ケアチームの看護師は、がん看護に関する知識やケア技術を備えていることを基本とし、様々な人や物事に対する調整を行い、その中でコンサルテーション役割や教育的役割を発揮することで、組織全体の緩和ケアの質の向上を目指します。
高いスキルを求められる仕事ではありますが、より多くの患者・家族へのケアの向上につながるため、そのやりがいは大きなものになります。
緩和ケアチームへの所属は直接的に目指すものではありませんが、看護師としてスキルアップ・キャリアアップできる仕事内容の1つだと感じます。
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